スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

六日目:サク編 18話

 部屋の入口を開ける。
 火で溢れているかと思ったら、まだそんなことはない。ここは五階だ。幸運にも火の手は到達していないのだ。それでも、熱気が強く僕の目に入った。まるで焚き火のすぐ側に立っているかのようだった。それから人もいない。廊下は阿鼻叫喚になっているのだろうと思っていたが、まるでそんなことはない。荷物を持った家族が、廊下の隅を走り去っていったのが見えた。それだけだ。そもそも、客があまり泊まっているのか分からない。いや、泊まっているだろう。ここは何ていったって観光都市なのだし、立地だって悪くない。警報装置が鳴り始めて、どれくらいの時間が経ったのだろう。小牧たちはすぐ起きたのだろうか。僕にしたって、この轟音が鳴り響く中長々と寝ていたとは考えづらい。それほど時間は経っていないはずだが、僕らだけ出遅れたのか。
 今パンフレットを見たところによると、このホテルの構造は、大雑把に言えば小さな正方形の中庭を囲んで長方形のフロアに長方形の廊下が収まっていて、その廊下を挟んで入口が対面する形で部屋が配置されている。廊下より外側の部屋は外が見えるが(それでも隣の建物が肉迫しているため、壁しか見えない)、廊下の内側の部屋はたぶん、小さな中庭が見えるのだろう。入口と今から行こうとしている非常口は対角線上にあり、五三九号室から非常口は長方形の廊下の長辺を辿ったところにある。でも大きさの違う部屋があるからなのか、それとも土地の扱い上そうなってしまったのか、その廊下が九十度屈折している場所があって、非常口は一直線上には見えない。
「他のやつらは逃げたのかな?」
 小牧が呟くように聞いてくる。「知らない。というか、他のやつらの部屋も知らない。知ってる?」「ほとんど四階だよ。女子は全員四階だ。男子の二つだけ、五階にある」と小牧は無表情で言った。何でそんなこと覚えているのか僕には分からない。それともそういうことを覚えておくことはクラスメイトとして当然のことなのだろうか。四三九。「あ……」みっこ。みっこはどうなったのだ? みっこは逃げただろうか。みっこは僕らの真下の部屋だ。そうなってくると、同じ非常口から逃げるしかないだろう。一つ階が下なだけに、火の手が早いかもしれないし、一つ階が下であることで、もしかしたら早く逃げれたかもしれない。それは分からない。確かめる方法は、四階に行くか、早く外に出てみっこの存在を確かめるか。どちらが危険か確かめるまでもない。もし、みっこが逃げていたら、四階に行く意味などない。でも、もし逃げていなかったら? もし逃げられない状況だったら? 僕は先ほどまで見ていた夢を思い出した。みっこが離れていく夢。死のミク。そんな、考えすぎだ。今の状況では、まだ逃げ道があると言える。みっこは逃げたに決まっている。死のミク。「先生何やってんだろ」小牧が廊下を見渡す。「先生も四階?」「そう」それならば。それならば先生がみっこたちを引き連れて逃げている可能性だって高い。いかに気力の薄い竹島としても、この状況で腑抜けていることはないだろう。そんな人間ではないと思う。なぜ五階には来ない? 来れないのかもしれない。四階の生徒で手一杯になってしまっているのかもしれない。別にそれを恨みはしない。みっこ。それならば、みっこが助かってないわけはない。僕は小牧を見た。こいつは何を考えている? みっこのことが気にならないのか? 小牧もみっこを好きだと言うのは、僕の勘違いだったかもしれない。でも、間違いないと思う。何を考えている?
「五階にいるもう一つのやつらの部屋は?」
「今から行く非常口の近く……」
「何でそんなバラバラなんだ」
「俺が知るかよ。行こう」
 信じろ。思い込め。
 みっこは、助かっている。
 みっこは、たぶん、助かっている。
「小牧」
「何だ、もう早く逃げよう。もう一つの部屋は非常口の近くだから――」
「――僕は、一度四階に行く」
 小牧の目を見て、言えた。言えて良かった。これは宣言だったから。なぜ? なぜ、僕は四階に行くのか? そんなの決まってる。みっこが、助かっていないかもしれないからだ。その可能性があるなら、僕は行く。たぶん、助かっているだろう。でも、助かっていないかもしれない。もし、そうだとしたら、僕は一生、後悔をしなければならない。言ってしまった。なぜ、と小牧は聞くに決まっている。そして、僕は手短に話さなくてはならない。みっこを助けにいくことを。そんな無謀な申し出はどの感情から沸いてきているのかを。
 小牧が固まっていた。しかし、何を言っているんだ、こいつは、という目ではない。そういう理解が出来ないという目ではない。そして怒ってもいない。馬鹿にしてもいない。まるで、ずっと前から、僕がそんなことを言い出すのを予期していたかのような目だった。すごく優しい目だった。でも、口元はきゅっと結ばれていて酷く厳しい表情だった。ライバルには、ライバルの匂いが分かる。気づいていたのは当たり前だが、僕だけではないのだ。小牧の方がずっと頭が良くて、人当たりもいい男なのだから。
「行くよ」
 僕は、もう一度言葉にする。
 小牧が口を開いた。
「駄目だ。階段もエレベーターも、入口の近くにしかないんだぞ」
「一階下がるだけだし。それが駄目なら、非常口から四階に寄っていく。一人で」
「駄目だ。寄ってくって距離じゃない。分かってんだろ」
「でも行く」
「駄目だ」
 ――ああ、小牧はやっぱり気づいている。
 だから理由を問わないのだ。その上で小牧は頑なだった。それが僕には酷く冷酷に見えた。「きっと、四階のやつらはもうとっくに逃げてる。他の男子だって非常口が近いんだから、絶対に逃げてる。俺らが一番最後なんだ」説得に回る小牧が、一転して途轍もなく卑怯な男に見えた。反感が糸を引いて心をかき乱して、怒りに近くなった。何なんだ、こいつは。みっこが心配じゃないのか。みっこのことを好きなんじゃないのか。それなら間違いなく、四階を確認しないではいられないはずなのに。みっこが。みっこが。みっこが。
 死んでしまうかもしれないんだぞ。
 僕の、どうしようもない感情が行き場をなくして、小牧の胸倉を右手で掴んだ。
「行く! 行かせろよ! お前こそ分かってんだろ!」
 瞬間、小牧も右手で僕の胸倉を握った。
 反射的な動きで、乱暴で、そしてとても力が強かった。
「分かってるに決まってんだろ! お前こそ俺の気持ちが分かってんのかよ! 行きたいに決まってんだろ! 冷静になれよ!」
「お前、よく平気だな!? 自分だけ逃げられるのかよ!」
 僕は暴れるようにしてもがいて、叫んだ。
「みっこが好きなんだよ!」
 瞬間の衝撃。
 僕の右手が小牧から離される。小牧の手も僕から離れた。
「うぇ!」無様な声を出し、床を転がり、滑り、僕は一瞬後、自分が殴られたことに気づいた。
「うるせぇ! みっこ、みっこ、みっこ! それが何だ! 俺だって好きだよ! 馬鹿やろう!」
 小牧が宣言するかのように言い放つ。
 その大柄な体を震わせて、全身全霊で、言葉を放つ。
 ――ああ。
 僕らは何をやっているのだろう。
 だんだん、分からなくなってきた。
 悲しくなって、混乱して、涙を堪える。
 みっこを好きで、助けたい男が二人。
 何で火事の中で喧嘩なんてしてんだ。
「……じゃあ何で止めんだ。行かせろよ。見てくるだけなんだから――」

「お前にも死んで欲しくないからだろうが!」

 ――こいつは、本当に、大したヤツだ。
 僕は、魂が震えるのを感じた。僕は床に手を付きながら、小牧を見上げた。肩を上下にいからせて、やっぱり口をへの字に曲げて、何かに耐えている。僕はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。こいつはもしかしたら一人で肩を切って人生を邁進していくタイプなんかじゃないのかもしれない。その筋肉質な体の内側に、もやもやとした感情を持て余して、心の中で不遇に叫んでいるのかもしれない。僕のレベルと、小牧のレベル。それぞれの高さは違っても、それぞれ心の中で叫び続けてる似た者同士かもしれない。それに加えて、こいつはとんでもなく優しい。僕がみっこに優しくしたいのとは違う。こいつは、きっと人間が好きなのだ。誰にでも優しいのだ。僕にすら、優しいのだ。客観的に優しいことは、どれほど難しいことだろう。小牧はそれが出来る。そして叫び続けてきた。きっと今も叫び続けている。冷酷なんかではない。小牧自身も四階にきっと行きたいのだ。でも、それは諦めている。僕より体力がある分、きっと小牧が四階に行った方が成功率は少し上がるだろう。でも小牧はそれをしない。この状況で冷静を失っていないから。頭がいいから。僕みたいに主観では動かないから。人間を信じているから。心配を信頼が上回っているから。
 小牧が諭すように、言葉を口から流した。
「笠原はきっと助かってる。先生がいるんだから。他のやつらだってクラスメイトは四階に固まってる。誰かが逃げ遅れるなんてことはないよ。きっと全員助かってる」
 でも、それでも僕は行きたいのだけれど。
 僕は答えなかった。
 絶対に小牧が正しい。
「あとは俺たちが助かれば」
 小牧は、苦虫をはき捨てるように微かに笑って、動いた。
 僕はその背中を追って、走り出す。
 煙が多くなってきている。
 袖で口と目を押さえて、ひた走った。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪六日目:サク編 17話 | TOP | 六日目:サク編 19話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。