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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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六日目:サク編 19話

 非常口は鉄の網が足場にあって、申し訳程度に細い手すりが付いている螺旋階段だった。ついでに言うと、その螺旋階段に至るドアは、一般家屋の勝手口に使われているかのようなペラペラのドアで、既に開いていて、火事が生み出す上昇気流によってペラペラと風に揺れていた。
 でも、まだしっかりと残っているし、こちら側には火が達していない。ずっと下を見ると、人がまばらに逃げ惑っていた。そこは細い車も通れないような路地裏で、もちろん消防車なんて通れそうもない。その路地裏に人がいること自体が危険なくらいだから、野次馬なんかはもっと大通りにいるのだろう。
「いない」
 小牧が短く言う。
 小牧は非常口の近くに部屋がある、五階にもう一つ存在するクラスメイトの部屋を覗き込んできた後だった。「いない」というのは、そこにクラスメイトがいなかったということだ。僕らが非常口から一番遠くて、一番階層の高い部屋だった。これで五階は僕らだけ逃げ遅れたことになる。それだけの時間が経っている。みっこが助かっているという信頼性が、多少上がった。
「僕らって見捨てられたのか?」
「いや、一度下に下りて保護されちゃえば、きっと俺たちを呼びに戻ることなんて出来ないんだ。先生でも。俺たちはやっぱり気づくのが遅かったんだよ。いいから早く行こう。逃げられなくなる」
 小牧はそう言って、風に揺れるペラペラの非常口を手で抑えてしっかりと開けた。僕もその行動に従った。細い手すりに触れると、それは体温以上に温まっていた。その温度が、僕を恐怖させる。ここは五階だ。下をのぞいて、ひやりとした。もし、こちら側まで火が達したら、こんな安っぽい階段なんて一たまりもなく、ドロッと溶けてしまいそうな気がする。そして僕らが逃げられないまま、揺れて軋んで五階から地面に叩きつけられる姿を想像してしまった。小牧は一段ずつ階段を飛ばして降りていく。足元がただの鉄の網なので、小牧がドスドスと乱暴に足をつくたび、手すりが震えるようにして揺れた。小牧が五段くらいを一気にジャンプして降りると少し留まった。こいつには恐怖がないのだろうか。
 そこには入口があった。
 四階へ入るドアだ。
 僕はそれをちらりと見る。
 小牧がそれを予期していたかのように言った。
「行こう」
 それから僕は何かを振り切るようにして、無言で三階へ、そして二階へ達した。手すりは下に行くほど熱くなった。最後には手すりから手を離して、その螺旋階段から駆け抜けた。その細い路地裏にたどり着くと、息を切らしながら上を見上げた。既に三階の入口に近い窓には火の姿が見える。それは蛇がチロチロと見せる不気味な舌のようだった。あれは舌なめずりしているのだ。あの乱暴な力は、劫火だから。きっと全てをその中に飲み込んで、簡単に灰にしてしまうのだ。
 僕は情けないくらい震えて安堵している自分を発見した。
「おい! あっちにみんないるぞ!」
 クラスメイトの一人が叫ぶ。そこは大通りに面する路地裏の入口だった。その向こう側は人ごみで、消防士が一人立っていて、誰かを押しとめようとしている。竹島だった。竹島が消防士と必死の形相で、もはや格闘ともとれるくらいこちらに向かおうとしている。それを消防士が止めている。あんなに必死な顔を始めて見た。「いいからどけ!」そんな怒声が聞こえてくる。そしてこちらに気が付くと、また「おい!」と言って、消防士の肩を乱暴に叩くと、僕らを指差した。それに消防士が気づく。すぐに宇宙服みたいな格好をした何人かの消防士が駆け寄ってきて、僕らは囲まれるようにして保護された。
 僕らは助かったのだ。
 クラスメイトの輪に迎えられて入る。
 竹島はまだ格闘を続けている。女子のほとんどは泣いていた。男子だって泣いているやつがいた。当たり前だ。せっかくの修学旅行がこんなことになってしまったのだから。自分が死ぬかもしれない恐怖なんて、誰だってそれまで味わったこともなかっただろう。加えて、今ホテルを包むあの劫火。自分は助かったのだ。あの中にいたら死んでいただろう。そういう安堵感で涙が出てくるのだ。
 でも良かった。みんな助かったのだ。僕はクラスメイトの顔を見た。
 その全ての顔をクルクルと踊るようなステップで、慎重に、慎重に一つづつ確かめた。
 二度、三度までは助かったことで、僕は笑顔を浮かべていた。
 僕は、四度、その中にあるべき顔を探した。
 きっとそれは泣き顔だろうと思いながら探し続けた。
 五度、六度、七度。
 僕は探した。
「おい……」
 僕は呟く。根気よく探し続けた。そこにはクラスメイトのほとんどが揃っていた。たぶん、ほぼ全員だ。僕は教室に並ぶ机を思い出して、そこに顔の見える一人一人を当てはめていく。毎日見ていた教室だ。思い描くことは簡単だった。自分と一緒に逃げおおせた同じ部屋のやつらも当てはめる。小牧も当てはめる。そして教壇には竹島を当てはめた。
 小牧と顔を見合わせた。
 小牧の顔が凍りついていた。
 どうしても、席が埋まらない。
 どうしても。
 どうしても。
 どうしても。
 どうしても。
 どうしても。
 どうしても。
 どうして。
 どうして。
 どうして。
 どうして。

 僕は周囲に存在する空気という空気を全て、
 自分の体内に限界を超えて取り込むと、
 咆哮と同じ方法で、
 爆発した。

「どうして、みっこだけがいないんだ!」

 全員が助かったんじゃないのか? 見間違えじゃないか? 見間違えるはずがない。僕がみっこを見失うはずがない。なぜみっこが? みっこだけが!? ああ! ちらりと竹島を見た。あの、消防士に取り押さえられている、勇敢な先生を見た。僕らが助かってからも、竹島がまだ消防士と争っているのはなぜだ? 誰かが助かっていないのだ。誰が? 決まっている、頭の中にある座席表の空白。その机。みっこだ。みっこだけが助かっていない。みんなそれが分かっているのだ。僕が助かっても、みっこが駆け寄ってこないのはなぜだ? 良かったね、サクちゃんって言ってくれないのはなぜだ? 凄く怖かったって、泣き顔が見えないのはなぜだ?
 みっこは、まだあの劫火の中にいるからだ。
 僕は、みっこと仲が良かった女子を見つけて、乱暴に肩を掴んだ。怯えたような彼女と目が合う。部屋は二班分の女子が同じ部屋に割り当てられているはず。彼女はみっこと同じ部屋のはず。なら、彼女が助かっていて、みっこがここにいない理由は何だ? どうして彼女だけ助かっているんだ?
「ねぇ……、みっこは? どうしてみっこがいないの? どうして!?」
 彼女は尋問されている犯人のようだった。
 彼女の顔は涙でびしょ濡れのだった。
 僕は彼女を責めているのではなかった。
 でも、彼女が怯えるのは無理ない。
「どうしてだ!」
 もう一度僕が叫ぶ。
 彼女はビクッと髪を揺らして、「だって、だって……」と何度もしゃくり上げる。
「だって……ミクちゃん、起きないの。呼んでも、揺らしても、叩いたって起きないの。絶対に起きなくて……。それで、階段から逃げようとしたら、火が見えて。怖くて……。もうその時にはミクちゃん、もう起きてるかと思ってた。当たり前でしょ。こんな火事酷いんだもん。でも、いなかった……。でも、私、先生に言ったよ!? でも、逃げてる時に、田中さんが足を……。先生は田中さんを背負ってたの……。だって……」
 見捨てたのか、という言葉を僕は押し留めた。
 いや、押し留めたんじゃない。押し留める必要もなかった。次の瞬間には、僕は何も考えられなくなっていたから。
 ただ、反射的に足が逆の方を向いた。
 ホテルの方を、自然に向いた。
 足に力を込めて、飛び出そうとする。
 その瞬間、僕の右手が後ろに引っ張られて、ビンと体が固まった。
 振り向くと、小牧だった。
「俺が行く」
 僕はその真っ直ぐな目を見た。
 しばらく、僕らはその目を見合った。
 僕は一度、長い瞬きをする。
「僕は、お前のことを、本当に凄い男だと思う」
 小牧が目を閉じて、首を振るう。
 そして、僕は続けた。
「ごめんな」
 僕は腕を振るうと、思いっきり小牧を突き飛ばした。
 いかに筋肉質の小牧と言えど、唐突のことで、後ろに吹っ飛ぶ。
 僕はみんなが小牧に注目した、その瞬間にホテルに向かって駆け出した。
 まだ言い争ってる竹島と消防士の脇をくぐるようにして抜けた。
 竹島が何かを言った。
 聞き取れない。
 小牧の声も聞いた。
 何を言ったか分からなかった。
「ありがとう」
 僕は、そういい残して全力で駆け抜けた。
 たった今、逃走してきた道を。

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