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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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六日目:サク編 20話

 警報が鳴り続けている。外からでも分かる不快な音だ。僕はその警報に向かって疾走した。この中でずっと寝続けられるなんて。火事の中でずっと寝ている? 呼ばれても、揺すっても、叩いても起きない? そんなの尋常じゃない。普通なら考えられない。みっこに何かが起きたのだ。もしかしたら、体調が悪かったのかもしれない。人生に一度の修学旅行で体調が悪くなって、でもみっこはそんなの周りに知られたくないから、ずっと気丈に振舞っていたのかもしれない。いずれにせよ、みっこには火事以前に何かが起きているのだ。
 カン、カン、カンと僕は螺旋階段を駆け上がる。手すりはますます熱い。二階に来たところで、安っぽいドアがパタパタと風に揺れていたのでチラリと中を見た。
 蹂躙。
 炎に蹂躙されている。
 まるで辺りを嘗め回すかのように、火は全てのものに飛び火していた。この世には燃え尽きないものなどないのだと言わんばかりだった。もう歩ける場所なんか存在しない。いつもは人に従い、操作されている火というものが、人に対して叛乱を起こしている。そのエネルギーは、新たなものを飲み込むごとに、膨れ上がり増長し爆発し、そして笑っているかのようだった。それが二階である。僕は三階を一気に駆け抜け、四階に達した。
 四三九。
 心のメモから拾い出す。
 ――あ、そうなんだ? 上? 夜は静かにしてね。
 みっこはそう言っていた。僕らの真っ直ぐ下の部屋。小牧の持っていたパンフレットによると、ここは一階以外は全て同じ間取りでフロアが取ってある。つまりみっこがいる部屋は長い廊下を真っ直ぐ行った場所にあるはず。
 僕は意を決して、ドアノブに手をかけた。
「……ッ!」
 熱い。火傷一歩手前の熱さだった。そんな。僕の期待はこの温度だけで打ち破られた。まだ炎が四階に達していないんじゃないかという期待だった。それでも行く。それだからこそ行く。
 僕は、ドアを開け放つ。
 ごう、と風が僕を襲う。
 炎が廊下を侵食していた。
 上下左右関係ない。二階ほどではないにせよ、燃えるものは既に燃え始めている。でもまだ歩ける場所は残っている。助かった。温度がサウナなんか比べ物にならない。瞬間、炎がこちらに向かってきた。酸素を求めているのだ。それを求めて、さらに力を得たいのだ。全てを灰にするために。僕は袖で目を押さえて、中に入り込む。逃げ道を失いたくない。ドアを閉めた。これにどの程度の意味があるだろうか。この膨大なエネルギーの前には、全く意味がないような気がする。エネルギー。そうだ。これはエネルギーそのものだ。
 夜は静かに? それは出来なかった。こんなにもうるさい。
 僕はシャツを脱ぐと、口に押し当てた。
 煙が充満していて、息が出来ない。
 なるべく背をかがめて、床に近い空気を求める。
 ――みっこ。
 みっこに辿りつかなければ。
 必ずみっこを助ける。
 僕は足に力を込めて、飛び出す。
 間取りは確かに五階と同じだった。途中一度直角に折れる場所があり、そこを右に曲がる。炎が僕のすぐ側で踊って、侵入者をせせら笑っているかのようだった。それは何度も僕の顔を撫ぜた。痛みは感じなかったが、頬を触ると、黒く煤が付いていた。そのたびに僕は振り払うように首を振るい、みっこのことを思った。火に対する恐怖も既になくなっていた。ただ、みっこの笑顔が思い出された。僕は無心に走った。途中、大きな爆発音が一つあって、建物全体がぜん動運動のように揺れた。僕は劫火の口へ侵入してしまったのだ。でも後ろも振り返らなかった。
 みっこへ。
 みっこへ。
 その場所へ辿り付ければいい。
 後のことはまた考えればいい。
 みっこが今、今無事であることが大事なのだ。
 それからのことは僕が何とかする。
 僕が必ず救う。
 だからみっこ、無事でいて欲しい。
 直進。四三九号室のドアがやっと見えた。
 全力で飛ばす。全力。ここまで本気になったは、初めてだった。
 ここまで速く走ったのも、初めてだろう。
 そのままの勢いで四三九号室を開け放つ。
「みっこ!」
 僕は絞りきるように叫ぶ。返事はない。幸運なことに、まだ部屋はそのまま残っていた。炎は進入していない。温度もそれほどではない。靴がまだある。それは見覚えのある靴だった。みっこの靴だ。みっこはまだ中にいる。裸足で逃げ出すことは流石にないんじゃないかと思う。でも今まだ中にいることは普通ではない。みっこに何が起こったのだ? 僕は躊躇せず、奥へ踏み込んだ。「みっこ!」もう一度僕は叫ぶ。部屋に入る。
 僕がいた部屋と間取りは全く同じ。
 布団が六つ。
 まだ何も燃えていない。
 そして僕はみっこの姿を見つけた。
 僕は目を疑った。
 みっこは、まだ寝ているのだ。
 少なくとも、そう見える。
「みっこ!」
 僕は微かな安堵と、大きな疑問を抱えて、みっこの枕元に座り込んだ。初めて見ることが出来たみっこの寝顔は、青白く、いつもの健康そうな顔からでは想像することが出来ない。「みっこ!」再三、僕はみっこに呼びかける。起きない。それは寝ているというレベルではないと思った。意識を失っている。それがピッタリくる。起きないではなく、起きれない。まるで夢の中に縛られているかのように起きれない。そんな雰囲気だった。僕は掛け布団を投げつけて、みっこの肩を持った。華奢な肩だった。僕がこんな風に掴んだら、壊れてしまいそうな体だった。「みっこ! 起きて!」僕は肩を揺らしながら懇願する。病弱だったから、というみっこの言葉を今更思い出した。くそっ! それは治ったと言っていたけど、治ってなんかいなかったのか? それが、これなのか? 分からない。そして分かったとしても、何も解決しないのだ。逃げなければ。みっこを背負っていけるだろうか。でも最終的にそれしかない。
「みっこ! 起きろ! みっこ! お願いだよ! 火事なんだ!」
 僕はあらん限りの声で叫んだ。
「みっこ! 死んじゃうんだよ!」
「う……」
 みっこの目が微かに動く。「みっこ!」長いまつ毛が、世界を撫でるように上がる。「みっこ! 起きて!」みっこの目が開いた。それが僕を写したのが分かった。でも、まだ焦点が合っていない。でも起きた。僕はそれだけで嬉しくなって、涙が出た。これで逃げ出せる。これでみっこの命を救うことが出来る。「ああ、みっこ……。良かった……」
 僕は、無意識的に、肩に手を回して、一瞬力を込めた。
 それはとても小さくて、汗ばんでいた。
 そしてとても近かった。
「……サクちゃん?」
 みっこが呟く。
「……うん」
「どうしたの、サクちゃん、あれ? え、ええ!?」 
 みっこが僕の肩を逆に掴んで、僕の体を引き離した。
 混乱した目で、僕を見つめた。
「え、何で!? サクちゃん、何でここにいるの!? 何してるの!? みんなは!?」
 僕は泣きながら、口から少し笑いをこぼした。
 のん気なものだ。
 やっぱり寝ていただけみたいに。
 僕は、軽く首を振るう。
「みっこ、逃げるんだ」
「……何、この、警報……」
 みっこはやっと高速で回転を始めたのだろう。
 その頭で、周囲の状況を考え始めたようだった。
 警報の意味。
 この温度。
 僕がいる理由。
 みんながいない理由。
 そして、たぶん自分だけが取り残された理由。
 消去法。
 その答えを出す瞬間、みっこは下唇を噛んで、下を向いた。
 一瞬で、みっこは最も的確な答えを弾き出す。
「うそ……だよね?」
「ううん」
「火事、なの……?」
「うん」
「ホント? ホントに?」
「うん」
「……サクちゃんは、私を助けに来てくれたの?」
「……うん」
 みっこの目に涙が光った。
「……ごめん」
 それまでにどういう生活を送ってくれば、その答えを出して正常を保てるのだろう。この警報が鳴り響く中で。でも助かった。ここでみっこが取り乱すことがなくて良かった。今まで気を失うようにして寝てたにしては、正常だ。なぜみっこは起きなかったのか? それは後で聞こう。もしかしたら病気のことかもしれないし、他の理由かもしれないけど、明らかに異常な事態だった。でもそれは後のことだ。まずは逃げなくては。まだ間に合うだろうか。非常口は平気だろうか。僕は部屋の入口を見た。
「酷い? みんなは逃げれた?」
「酷いよ。でも、みんなは平気。あとは僕らだけ」
 みっこの両目から涙が落ちる。
 僕は、それをこの状況で、綺麗だと思う。
 この状況から抜け出したい。
「ごめん。サクちゃん……ごめん……」
「いいんだ。行こう。逃げられなくなる」
 僕はみっこの手を引いて立ち上がろうとした。
 みっこも、引っ張られるようにして、立ち上がる。
「大丈夫? 歩ける?」
 みっこは微かに頷く。
 でも、立ち上がった瞬間に一瞬ふら付いた。
 意識がまだ薄いかのように。 
「サクちゃん、ごめんね。ごめんなさい……」
「いいから――」
「ごめんなさい……。でも私、どうしても見たかったの」
「え?」
「桜」
「え?」
 見たかった?
 どういう意味だ?
 何を? 火事を? 桜? 馬鹿な。
 みっこは何を言っている?
 もしかしたら、正常なんかではないんじゃないだろうか。
 それは当たり前だ。今まで意識がないような状態だったのだから。
「でも、それは意外と、"重かった"」
「え? 何? でもそんなこと後で――」
 ――僕はその意味するものを、確かに後で理解することになる。
 ただその直後は、隣の部屋から、いや、たぶん下の階から。
 強烈な爆発音が、ホテル全体を震撼させた。
 僕は反射的に、みっこの小さな体を丸めるて包み込んだ。
 そして、想像を絶する衝撃と赤々とした劫火を一瞬見た。

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