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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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六日目:サク編 21話

 一瞬だけ気を失っていた。
 何度も何度も、僕を呼ぶ声が聞こえる。酷く遠い声のように思った。警報が邪魔をしている。立ち上がらなくては。みっこが僕を呼んでる。そうだ、逃げなくては。みっこと一緒に逃げなくては。僕は目を開けた。床があった。自分が寝転んでいることも分からなかった。ただ、目の前に右手があった。動かしてみる。動く。まだ動く。そうだ。爆発があった。それで一瞬気を失ったのだ。左手もあった。そちらも動かしてみる。助かった。まだ動く。ただ体中が熱い。周囲をチラリと見る。火がある。先ほどの爆発で火がこの部屋にも侵入してきたのだ。
 視線を上げて、みっこを見た。良かった。無事みたいだ。
 そんな泣くなよ。行こう。逃げよう。すぐに。
 みっこを連れて、逃げるんだ。
 そして、助かって良かったって、みんなで笑う。
 小牧も泣いて喜ぶだろう。
 行こう。
 逃げるんだ。
 僕は手の力を総動員して、立ち上がろうとした。
 その瞬間、力が抜けて、顎を強かに床に打ちつけた。
「あれ……」
「サクちゃん……!」
「みっこ……逃げなきゃ……待って。すぐに……」
 何度も僕はそれを繰り返す。
 顎やら額やら頬やら何度もぶつけた。
 顔だけが無性に痛かった。
 気ばかりが焦る。
 どうしたんだ。
 早く……。
 逃げなきゃならないのに。
 みっこが僕の顔に手を添えると、ひたすら謝りながら号泣した。ポタポタと涙が落ちて、僕の顔に落ちる。妙に顔だけが痛い。どうしたんだ僕は。どうしても起き上がれなかった。なぜか安穏として、しかし混乱している意識があった。何で立ち上がれないのか分からない。
 手は動くのに。
 顔だって動くのに。
 腰から下が、全く言うことを聞かない。
 僕はどうなってしまったのだ?
 そして僕はみっこに顔を触れられたまま、自分の下半身を見た。
 ああ――。
 そういうことか。
 下半身は、今まで壁だったものに埋まっていた。
 そして壁だった所には、炎で出来た新たな壁があった。
 ああ――。
 無理だ。
 体中が熱い。
 炎だけのせいではない。
 妙に正常を保っている。
 一つ、ため息にも似た吐息が僕の口からこぼれた。
 脈拍が聞こえる。自分はまだ生きている。
 そして、その生が悟った。
 どうしようもなく。
 僕はもう、無理だ。
「みっこ……」
「ごめん……ごめん、ごめん。嫌だ、サクちゃん……」
「みっこ。逃げて。きっとまだ間に合う」
「やだ! だってサクちゃんが……!」
 僕は渾身の力を込めて、上体だけ起こすと、みっこの顔を手で囲った。
「みっこ、いいから逃げるんだ。僕はみっこを助けに来たんだから! みっこは助かるんだ!」
「いや!」
「みっこ!」
「いや! もういや! こんなの、もういや!」
「逃げろ! みっこ!」
 僕は残っている生をかき集めて声を出した。
 その声にみっこはビクッとする。
「だって、サクちゃんが……死んじゃう。死んじゃうよ!」
「……大丈夫だから……。みっこが無事に逃げられればいいんだ……」
「やだ、ダメだよ……! サクちゃん……!」
「みっこ。お願い。逃げて。お願いだよ……」
 もう声にも力が入らない。
 みっこはグズッと袖で涙を一度拭った。
 それでいいんだ。
 みっこは逃げれる。
 それでいい。
 僕はその顔を見ていた。
 最期だと思った。
 僕は、いっぺんに、色んなことを思い出した。
 そのほとんどがみっこと関連していた。
 せめて一緒に卒業したかったなと思った。
 助けに来て足手まといなんて情けない。
 小牧なら上手くやっただろうか。
 そうかもしれない。
 ――みっこ。
 こんな別れは嫌だ。
 もっともっと生きたかった。
 もっとみっこと笑いたかった。
 みっこは中々立ち上がらない。
 何をしている?
 早く逃げろ。
 逃げろ。
 でもみっこは逃げる気配がない。
 逃げろ。
 みっこ、逃げろ!
 でもみっこは、逃げなかった。
 僕の顔を見て、首を二度、三度、強く振るった。
 そして口をきゅっと結ぶと、
 決意を滲ませた声で呼んだ。
 その名を。

「来て! コルト!」

 みっこがその不可解な言葉を叫んだ直後、僕の背後の炎が急激に膨張するのを感じた。ああ、もう駄目だ。横向きの火山が噴火したかのように、炎が窓のある壁全体を這ったように撫ぜた。炎の壁に僕らは囲まれた。もう駄目だ。みっこを守れず、僕らはここで死ぬと思った。この絶対的な炎の量。僕らを百回焼き殺しても、まだ有り余る。僕は無力だ。みっこも守れない。本当に守りたかった。
 みっこは何を言った?
 コルト?
 何だ、それは。
 僕には分からない。
 そして考える力も失っていくのが分かった。
 僕が死んでいく。

 ――ザンッ!

「……え」
 それは手だった。
 それを実感として感じる死の淵で、僕はそれを見た。
 みっこに呼ばれた、その姿を見た。
 そして声を聞いた。
「……クク、その絶望はいい」
 炎の壁から、人の手としか思えないもの伸びている。
 何だ、あれは? ありえない――。
 あの炎の中から、それでなくても、あそこはもともと壁だった。
 ありえない。
 ありえないことに、あの手は生きている。

 ――ザンッ!

 すぐに、両手が現れる。
 炎の壁から人の両腕が生えている。
 何だ、僕は幻覚を見ているのか?
 そして、暖簾をくぐるぐらいの気軽さで、顔が現れた。
 劫火の暖簾を。
「う……あ、ああ……」
 彫りの深い、端正な、でも邪悪な顔だった。
 その顔が僕を見て、にやりと笑った。
 地獄に受け入れられた気分だった。
 両足が出てくる。
 誰だ、と問うのはおかしい。
 きっと、誰、ではない。
 人間の姿をしているけど、絶対に人間なんかじゃない。
 それはありえない。
 あれはこの炎さえ黙らせるかのような、強大な暗さ。
 全てを見下ろすためかのような長身痩躯。
 真っ黒のシャツ、真っ黒の靴、真っ黒のコート。
 真っ黒な髪、そして存在そのものの黒さ。
 何だ?
 あれは、何だ?
 その男は一言、「熱いな」と言った。
 それからまるで泥を払うように、体にまとわりつく炎を払う。
 みっこがその男に対して「ああ、コルト!」と呼ぶ。
 まるで、それが救いであるかのような目をして。
 だが、僕は分かる。
 あれは救いなんかではない。
「イエス」
 男は、そう答えた。

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