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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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六日目:サク編 22話

「呼んだな? 第三者の前で、俺の名を」
 どこから来た? どうやって来た? そんな当然の疑問も発せない。こいつは、何か、想像を超えた何か、だ。きっとそんな質問に意味はない。ただ、その男はまるで火事など目に入らないかのように、まるで死にかけている僕など目に入らないかのように、そんなことを言った。その声は高圧的で、みっこに向かって命令を強いるような口調だった。
「見た所、状況は最悪だな」
「……うん」
 みっこが答える。
 男は愉快そうだった。
 みっこは、この男が何なのか知っている。炎の中から炎をまとって現れたこの男。
 超越的な何か。
 幻ではない。
 きっとみっこが知っている現状を打破出来る唯一の方法。
「ククク。俺と第三者の前で俺の名を呼ぶ。その意味は二つある。最も俺以外の他の同族では意味は一つしかないこともあるが。俺は寛大で良かったな。一つは信頼に対する裏切り。この場合は罰を受けてもらう」
「……うん」
 僕は何を言っているのかも分からない。
「もう一つは、信頼に対する献上」
「……うん。だって他に助かる方法ないでしょう!? 早く……。サクちゃんが死んじゃう……!」
「サク。ふむ。それが名か」
「早く……!」
「待て。待て待て。手順というものがある。これも契約なのだから」
 そこで初めて、その男は横たわる僕に向かって座り込むと、僕の顎をついと指で持ち上げた。「いいな。適度に濁っている。絶妙な希望とのバランスがいい。ククク……」僕の目を見ているらしかった。僕もその男の目を見た。真っ黒の瞳。まるで何も映していない。光も映していない。飲み込むだけかのような、底なしの瞳だった。
「生贄の羊よ。必要なのは同意だ」
 その男は僕に向かって話しかける。
 声を出すのも難しいなんてことを気にかけることもなく。
「……な、に……?」
「同意。ど、う、い、だ。みく子はお前を俺に差し出すことを選択した。しかしお前にも拒否権はある」
 何を言っているのか分からない。
 だが、同意をすれば僕は助かると言っているように聞こえる。
 みっこは助かると言っているように聞こえる。
 生贄? みっこが僕を差し出した?
 まるで悪魔との契約みたいだ。
「イエス。これは共有契約の手続きだ」
「……みっこは助かる……?」
「サクちゃん……」
「クククク。お前が同意さえすればな」
 それならば迷うことはない。例え、これが死ぬ間際の幻だとしても、迷うことはない。悪魔との契約。結構じゃないか。みっこが助かるならそれでいい。僕はそのためにここまで来たのだから。悪魔に魂だって売ってやる。
 僕は言った。
「いい……。同意する。みっこを助けて……」
 その声に男はにやりと笑うと立ち上がって、みっこの後ろに立った。何をするつもりだ? みっこが再び、僕の顔に触れる。もう顔なんて涙でクシャクシャだった。「ごめんなさい……。他に方法がなかったの。でも、私はこれが終われば、彼のことはきっと思い出せない。少なくともこのことは。だから、サクちゃん、約束して」みっこは僕の髪に指を入れて、クシュッと辛そうに握った。
「これから彼の名前を決して呼ばないで」
 みっこの後ろで男が不気味に笑う。
 嘲笑のように。
 せせら笑っている。
 そんなことは不可能だと言わんばかりに。
「始めよう。いい加減間に合わなくなるぞ。クククク。さぁ、どうする? 記憶は豊潤だ。どちらの記憶をどれだけ使う。何を願う。言え。俺の名と願いを!」
 記憶?
 願い?
 願いを叶えてくれるというのか?
 僕はみっこの目を見た。
 みっこは僕を見つめていた。
 僕はその目をどこかで見たことがあると思った。ああ、さっきの夢の中でみたみっこの目だ。あの卒業式での別れの目だ。なぜ、そんな目で僕を見ているんだ。願いが叶うなら、そんな目で僕を見る必要はない。炎の中から現れた超常の男が願いを叶えてくれるんじゃないのか。悪魔。そうだ、きっと悪魔なのだろう。そうとしか思えないし、そう思うのがピッタリくる。この男は悪魔なのだ。人の願いを叶える。でも何かを要求するのだろう。悪魔だから。
 それが記憶か?
 みっこは僕を見つめていた。
「ごめんなさい。サクちゃん。修学旅行がこんなことになっちゃって……。桜が見たかったの。サクちゃん、言ってたじゃない。一生に一度の修学旅行だから、桜が見たかったなぁ、って。私もそう思ったの。サクちゃんと……見たかったなぁ、って。そしたら、どうしても見たくなっちゃって、抑えられなくなっちゃって。普段はそんなことしないよ。でも、どうしても、一本だけでも、って。だから夜寝るときに、それを叶えようと思った……。こんなことになるなんて思ってもみなかった……」
 みっこは懺悔するかのようだった。
 何度も何度も言葉を区切って、しゃくり上げながら。
 何度も何度も、目を手の平で覆った。
 でも抑えきれずに、涙は僕の顔に落ちた。
「サクちゃんと、見たかったの……。ごめんなさい……」
 男がみっこの頭に右手を添えた。
 みっこが少し振り返る。
 男が口の端を上げて、微かに笑う。
「コルト。私の記憶だけ使う。サクちゃんの怪我を治して」
「巨大な願いだ。先ほどの契約で懲りなかったか? 生命力の回帰は"重い"ぞ」
 みっこが僕の右手を握った。
 小さなその手は、この温度の中、震えていた。
「サクちゃん、ごめんね……。せめて、このまま一緒に卒業したかった。でも、私、忘れてしまう。もう思い出せなくなっちゃう。ごめんね。サクちゃん……! もっと一緒にいたかった。でも、一緒にいたいってきっと思えなくなっちゃう。今まで、ずっと楽しかった。本当だよ。学校に行って、サクちゃんに会うのが本当に楽しかった。この後、もしかしたら、私、サクちゃんといても楽しいって思えなくなっちゃうかもしれない。でも、今、一番大切な記憶って、私、それしか思いつかない。でもね、サクちゃん……。サクちゃん……」
 みっこが、さらに腰を屈めた。
 ゆっくり、ゆっくりと。

「サクちゃんのこと、本当に好きだったの」

 みっこの唇が、僕の唇に重なった。
 それはとても柔らかくて、近くて、でも絶対的に遠い。
 ――一を無限で割ると零になる。
 それを教えてくれたのは数学の先生だった。僕はそれが信じられなかった。なぜなら、その距離は必ず零にはなれない。どれだけその解が零に近づいても、絶対に零にはならない。零に触れ合うことはない。
 このキスのように。
 僕は何も言えなかった。目を見開いたままだった。目の前にみっこの唇があった。本来なら、僕は喜ぶべきだった。僕もみっこが好きなのだから。でも、なぜ、今のタイミングなのだろう。何で、こんな悲しいキスなのだろう。僕が死んでしまうから? 違う。もっと別の何か。これから何かが起ころうとしている。みっこは僕を助けようとしている。記憶を食うという男が何かを起こすのだろうか。みっこは何をしようとしているのだろう。この切なさはどこからくるのだろう。何で、こんな圧倒的な寂しさを帯びたキスなのだろう。もっとキスというのは、幸福な何かじゃなかったのか。
 まるでみっこの唇の柔らかさが、夢の曖昧さのようだった。
 その曖昧さが、少し遠ざかる。
 唇と唇が少し、離れる。
 そしてみっこが目を閉じたまま、言った。
 瞼に涙が噛み締められたかのように、一筋流れた。

「代償は、サクちゃんへの恋心」

「え……?」
 僕は理解が出来なかった。
 男が狂ったように、哄笑を始めた。
「いいだろう。いただくぞ……!」
 そして僕はその一部始終を見た。男の腕はみっこの頭を掴んでいる。それが、まるで蛇のようにうねった。蛇のように? いや、蛇そのものだった。いつの間にか頭も左手もなく、ただ、右腕の袖からみっこの頭を狙っている黒い蛇そのものだった。「あ、ああ……!」僕は死の淵でも恐怖した。これは死とはまた別の恐怖なのだ。別の失う恐怖なのだ。
 悪魔。
 それに間違いはない。みっこは悪魔と契約した。おそらく僕も。それしか助かる方法がなかった。代償は? みっこは何て言った? いただく? 食う気なのだ。この悪魔は人の記憶か感情を食べるのだ。そして、願いを叶える。なんて歪んだ存在。何て醜い存在。そんなやつがなぜ、みっこに? 分からない。みっこは何て言った?
 黒い蛇が全ての服を脱ぎ捨てた。袖からシュルシュルと脱ぎ捨てた。僕らの周りを、その長い尾が囲った。三角形の黒い顔がみっこの目の前で涎を垂らしながら、壊れたように口を開けた。
 そして、みっこと僕を、一飲みに飲み込んだ。

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