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六日目:蜜編 現在 83話

それが最期の唄だと、誰もが知っているようだった。

広場に戻る最中も、彼女の唄は聴こえていた。裏路地は混雑しており、放射状の階段は人で溢れている。気が付けば今、此処に、こんな小さな場所に、百人以上が集まっている事実を、此処にいる人達は知っているのだろうか。きっと気付いていない、と僕は思った。全ての人達が彼女の歌声に耳を澄ませ、目を閉じていたんだから。


【M線上のアリア】 現在/83


彼女の指が、最期の一弦を弾く。
飽和した音声が歌声に変化し、どんな絶叫よりも柔らかく響いた瞬間に、その曲は終わりを告げた。息を吐き、頭を下げる。静寂――間を置いて、唸るような歓声と拍手。それを僕は、階段の上から眺めていた。既に人が溢れ、広場の中央に戻るのは難しかった。聴衆は立ち上がると、更に大きな拍手を重ねた。ミクコは照れ臭そうに頭を掻き、続けてその頭を静かに、深く下げた。夜空が見える。真暗な夜空だ。世界が暗闇に飲まれる中で、広場の中央、街灯に照らされ、彼女は間違いなくオレンジ色だった。真黒でも無く。真白でも無く。恐らく、初めから終わりまで、其処に彼女は存在していたのだ。気が付かなかったのは僕等の方だった。

「そういう場所にこそ、歌は必要だ」

全ての演奏が終わった後も暫くの間、聴衆は帰ろうとせずに、彼女を囲んでいた。僕は階段の上から、店先の壁に凭れて、広場の中央を眺めていた。ミクコが一人の女の子の髪に、一輪の花を挿しながら、楽しそうに笑う。続いて別の女の子と抱き合い、何故か泣き出した女の子の頭を撫でている。そしてまた優しく笑う。――異変。
瞬間、僕は小さな異変に気付いた。ミクコの表情が違う。それは微小な、変化とも呼べぬ変化だったが、まるで別人の(例えば僕が全ての記憶を取り戻した瞬間の)ような表情だった。
十四曲のライブの最中に、彼女の身に何かが起こった? もしかすると全ての記憶が戻ったのかもしれない。だとすると彼女の限界が致死状態に達した、という事。しかし彼女の表情や仕草からは、そのような悲壮感を感じない。否、むしろ――。

刹那、人影。数メートル離れた場所にバスターが立っている事を、僕は確認した。一般人に紛れて、黒服とメイド服。気が付くと包囲されている。広場の中央に目を向ける。ニコラ。人波を掻き分けて、彼女の元にニコラが近付いている。「……何をする気だ、ニコラ」
「うぇひっひっひ……久し振りだなぁ……お前"M2"なんだろ?」
バスターが話しかける。無視。数日前に研究室で遭遇した事を、バスターは覚えていない。
「俺達は今夜、"MIX_call"を連れて行かない。その代わり、お前が明日、必ず研究室に来るように……だとさ。ノートン博士からの伝言だ。お前達ハ幸せ者ダな。うぇひっひっひ……」
僕は広場の中央から目を離さなかった。ニコラとミクコが言葉を交わしている。何を話しているのかは解らない。彼女の表情から伝わってくる感情は、少なくとも恐怖、では無い。だからと言って安心、とも違う。……受容。(キリコは何故、ニコラを受け入れた?)

「うへひひひ……"M2"、お前は何がしたいんだ?」
ニコラが肩に置いていた手を離すと、ミクコの元を立ち去る姿が見えた。
「お前も俺みたいに死なないカラダを造ってもらえば良いのに……うぇへへへ」
僕は人が少なくなり始めた階段部分に腰をおろして、その全ての光景を眺めていた。

「液体に"SNAKE"して、ゼリーみたいな体で、記憶を食われながら、永遠に生きるのか?」
「うっひひひひ……それ何の話だ?」
「別に」

一人の男がバスターに近付き何かを耳打ちすると、広場にいる黒服とメイド服が立ち去り始める。「じゃあな"M2"、待ってるぞ」。バスターは下品に笑いながら姿を消した。ミクコは広場の中央でギター・ケースを広げ、もう片付けを始めている。聴衆は緩やかに減り始めていたが、まだ辺りは賑やかで、近くに座っている若者達がミクコの歌の感想を語り合っていた。
僕は息を吸い込み、夜空を見上げた。明日、ニコラの研究室で全ては終わるのだろうか?
今、ミクコに訪れているはずの小さな異変と、新しい可能性。僕等は手遅れか? それとも。

不意に、着信音。
携帯電話が鳴っている。スーパーマリオの無敵状態のテーマ。
広場の中央に目を向ける。しかし、そこにミクコの姿は、もう存在しなかった。

僕は通話ボタンを、押した。

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