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六日目:サク編 25話

 記憶が、音を立てて変えられていく。
 その音がどこから来ているのか、初め僕は分からなかった。呻くような、すすり泣くような音だ。地震のように視界が揺れている。しばらくして、気づくことが出来た。視界が揺れているのではなく、僕の体が立っていられないほど揺れているのだ。この音は僕の喉から出ている。僕が泣いている音なのだ。この頬に感じる気持ち悪さは、涙を流しているからなのだ。僕が子供のように泣いている。声を出して泣いている。留めようがない。失っていくものと、失っていたものを同時に感じることが出来る。今までになく、膨大な記憶の消去と書き込みが同時に行われている。その過程で僕は、僕に起こった事実を知った。知ることが出来た、というのが正しい。まるで僕という人生の映画を見ているかのようだった。大きくフィルムの欠けている映画だ。所々の事実だけを映している。悪魔に渡したいくつかの記憶を見た。僕はそれがあったということすら忘れていた。何て凶悪な力なのだろう。何か失わせたという記憶さえ失わせるなんて。
 みっこ。
 みっこもこういうのを味わったんだ。
 僕が捧げたものは、みっこへの恋心。
 みっこが僕に捧げてくれたものは、僕への恋心。
 何でそんなすれ違ってしまったのだろう。
 結果的に、それをただトレードするだけになってしまった。
 二つあったものが一つになってしまった。
 でも、僕は生きている。
 みっこも生きている。
 僕らは、たまたま偶然、生きていくために膨大な代償が必要になってしまったのだ。それを失わざるを得ない状況に、たまたまなってしまった。人が生きていくために、自然と失っていくものよりも遥かに大きいものが必要だった。そうしなければ、二人とも死んでしまっていたから。少なくとも、みっこの願いはそう。生きていくために必要だった。なら僕の願いは? 正解はもう分からない。僕は間違っていたのだろうか。それはもう分からない。僕もあの時点で、ああしなければ生きていけないと思った。そうすることが、それから先の未来を生きていく方法だと思った。本質的に、みっこの願いと変わりはないと思う。
 取り戻したかった。
 ただ取り戻したかったんだ。
 みっこが大切に思ってくれた、僕への恋心。
 それを取り戻してあげたかった。自分のエゴだと言ってしまえばそうかもしれない。でも、みっこに見せ付けたかった。ほら、こんな綺麗なものが、みっこの中にはあったんだよって。こういう経験を僕らは共有したんだよって。それを一方的に失わされたから、僕は取り戻したかった。
 僕は泣いた。
 みっこへの恋心。
 それを片っ端から失っていくから。
 対照的に、悪魔は哄笑を続けていた。
 もう僕から手を離し、両手を広げ、空を仰いでいた。
「旨い! ここまで旨い記憶は久しいぞ!」
「……ばかやろう」
 僕は力なく、悪魔の胸倉を掴んだ。悪魔の方が背が高い。僕は黒いワイシャツをクシャと掴みながら、悪魔の目を見た。何も映さない目。全てを飲み込むだけの目。反射しない目。奪う目。憎しみを込めて胸倉を掴んだはずだったのに、立っているのも苦しくて、僕の体はゆらゆらと揺れた。
 でも、今、一つだけ、こいつに一矢報いることが出来る。
 それを思いついた。
 ここでやっと、こいつに敗北感というものを味あわせてやれる。
 それにきっと、何の意味もない。
 でも、敗北を心に刻んで、僕から去ればいい。
 みっこと僕を好き勝手に弄んだ、その最期に、一つだけ悪魔としての汚点を持っていけ。
「ほう、まだ意識があるか。人間の慣れとは怖ろしいな。意識を失っていた方が楽だというのに」
「お前の弱点は……」
「何のことだ」
「共有契約に、分割契約。重複契約。お前は人から奪う方法を知りすぎているんだ。でもそれが弱点だったんだ……。ちくしょう。こんなに僕の記憶を奪っていたなんて。未来をこんなに変えてきたなんて、全く……気づかなかった……」
「お前が望んだことだ」
「そう……、僕が望んだことだ。それに間違いはない。でも……僕の望みが叶っても、僕だけの望みが叶っても! そんなの大きな目で見れば、何も意味はなかった。お前はもう、知っているんだろう、こんなこと。どれだけ愚かな人々を見てきた? 人間は弱いから……。お前みたいのに頼りたくなる。どれだけの人間を廃人にしてきた? ちくしょう。そこまで分かっても、取り戻したかったって、僕はまだ思ってる。ちくしょう……」
「ククク。後悔しろ。懺悔は聞かない。廃人? ククククク。俺は欲望を渡り歩いてきたのだ。ほとんどが最期は廃人さ。救いなどない」
「本当の救いっていうのは……。きっと……。きっと、人と人の間にあるんだ。自分の中にはどこにもない。でも探せば、無数に……」
 ただ悪魔は笑い続けていた。
 酷く冷めた目で、僕を見ていた。
 そんなことはどうでもいいとばかりに。
「――コスモス」
「……何?」
 僕は悪魔を掴む右腕にありったけの力を込めた。これで最期だ。こいつとはこれで最期のやりとりになる。負けるな。今までずっと負けてきた。悪魔と自分に負けてきた。負けるな。これに、きっと何の意味もない。でも、僕には意味を持つ。こいつに、ただ一つ、勝つという意味を持つ。
「賭けに負けた悪魔はどうなるんだ? ふ、ふふふ。どうにもならないんだろうな。お前は自由だから。でも、僕は分かってしまった。思い出せたぞ」
「それは違う。お前は思い出したのではない。事実を知っただけだ」
「お前の認識なんて関係ない。僕の記憶に納まった事実だ」
「意味がない」
「意味ならある」
「どのような?」
「お前の、悪魔の記憶に刻まれる、ささくれみたいな汚点だ!」
「そんなものはない。意味はない」
「僕は、ここにコスモスの種を植えた!」
 瞬間、食べるとき以外は冷静な悪魔から、初めて見せる種類のものを感じた。どくん、と周囲の闇が脈打ったのを感じた。ガツッと僕の腕が振り払われた。その衝撃は凄まじく、もともと立つ力さえあまり残っていない僕は右によれて倒れようとした。もう意識を保つのも精一杯だった。しかし、その瞬間、長い腕が僕の首を折れんばかりに掴んだ。さらにその腕は万力のように、何も力を入れるふうでもなく、僕の体を持ち上げた。「それが何だというのだ……!」悪魔の初めて見せる感情。それは、怒りのようであり、憎しみのようであった。僕はなされるがまま、宙に浮いた。手も足も力が入らず、プラプラと情けなく揺れた。
「何を怒っている。悪魔が」
「食事を不味くしたな! それが何だというのだ!」
「何でもないさ。ただ、お前の食事を不味くした。それだけなんだろ」
「愚か者が……!」
「ぐうっ!」
 悪魔の力が強くなった。首が締め付けられる。今まで精神的なものしか受けなかったから、ここまで肉体的な行動に出るとは予想外だった。でも、僕はこの悪魔に一矢報いた。意識が遠のく。それが記憶を奪われたことによるものなのか、こうして首を締め付けられているからなのか判別がつかない。でもいいだろう。悪魔の顔を見るのは、きっとこれで最期だ。その顔は憤怒に彩られていた。食事を何よりも大事にする悪魔。願いを餌とし、人の記憶を奪い、人の間を渡り歩いてきた。どこから来たのだろう。自分から来たといった。人と人の間に存在する、これもまた一つの真実なのだ。どこに行くのだろう。それは知ろうとも思わない。
 僕はこれからも生きていく。色々なことを経験して、色々なものを得て、そしていくつかを失い、その度に、笑い、泣き、悲しみ、喜び、虚しさを感じ、悔しさを感じ、記憶を大切にしながら、記憶を失くしながら、でも生きていく。悪魔に頼るのはこれで最期だ。思えば長い付き合いだった。でも感傷のようなものは何もない。ただ、最期にやはり少しだけ感謝している僕がいる。生きている。僕もみっこも生きている。
 生きていく。
 二人が願ったその願いは、叶えてもらう。
「さよならだ。コルト」
 悪魔という存在は言った。
 それは肯定を表す言葉。
「イエス」

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