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一日目:プロローグ 00話

Hello?
聴こえていますか。
君が最初に聴いた歌と、君が最後に聴いた歌。

Hello?
聴こえていますか。
零れ落ちそうなリズム。一回。二回。三回。四回。

聴こえているなら手を伸ばしてね。きっと間に合うはずだから。
何も無い世界に、一体どうやって、色を付けようか。
……ねぇ、君は何の為に生きてる?


【M線上のアリア】プロローグ


――何となく訪れ始めた秋に向かって、私は一人で息を吐いた。
普段通りの花屋のバイトの帰り道、見慣れた公園は紅葉に染まり始めている。
店長がくれた、売れ残りの小さな赤い花束を抱えて、私は急ぐでも無く、止まるでも無く。
只、何となく歩いているのは、只、何となく別に意味と目的なんて無いからだし、只、何となく気侭に歩いていた方がラクだからに過ぎない。少し古びたアパートの鉄階段を昇って、鍵を回して、わざと勢い良く、扉を開ける。テレビから流れる笑い音が聴こえた。「ただいまぁ!」

「……おかえり、早かったね」
テレビを観たまま、此方を振り向きもせずに、恋人が形式通りの返事をする。
「蜜クン、見てよコレ、店長に貰っちゃった!」
「……また売れ残りの花でしょ?」
やっぱり振り向きもせずに、恋人は言う。
「売れ残っても、お花は、お花! 大体さ、お花は自分が"売れ残った"なんて思って無いよ! 人間が勝手に売り買いしてるだけなんだから! 売れ残っても、お花は、お花!」
そこまで言うと、ようやく恋人は、身体は寝たまま、顔だけを此方に向けた。
「……へぇ、どんな花?」
「あのねぇ、コレはねぇ、ワレモコウっていうお花だよ」
「……へぇ」

私はパソコンを起動させ、Tシャツを脱ぐと、それを洗濯機の中に放り込んだ。
「あれ、洗濯まだ?」
「ああ、後でやるよ、テレビ観てから」
「あんまり夜中に洗濯すると、ご近所の迷惑になるんだよ」
蛇口を捻ると、まだ冷たい水が流れた。
浴槽にお湯を溜める、水道の音が響く。
「あれ、黒ちゃん、今日はまだ来てないなぁ……」
お気に入りのオレンジ色のソファに座り、パソコンのモニターを覗くと、私は独り言のように呟いた。まるで彼は反応せず、相変わらずテレビを眺めている。それほどテレビが好きなのかと訊ねたら、きっとそんな事はなく、只、何となく眺めているだけだろう。
「先にお風呂入っちゃうけど、蜜クンお腹すいたでしょ、何食べたい?」
「ナポリタン」
「また? 好きだなぁ、ナポリタン」

恋人と同棲を始めて、もうすぐ二年が経とうとしていた。一口に二年と言っても、それなりに紆余曲折があり、それなりに長い月日を重ねたような気がする。だけれど、やっぱり、私は急ぐでも無く、止まるでも無く。このまま毎日が続くと良いなぁと、只、何となく思っている。

「……ああ、そう言えば、みく子」
「何??」
「何か分厚い便箋みたいなの、届いてたけど」
「へぇ、誰から?」
「んと、何だコレ、えと……JNL?」

テレビの中から下品な笑い声。
「……へぇ、何処かの新しいショップの案内状か何かじゃない?」
下着を洗濯機の中に放り込み、浴室の扉を閉じた。

シャワー音。
難しい事は、あまり考えたくない。大抵の出来事は、水に流せば忘れてしまう。だけれど世の中には、どうしても忘れられない事もあって、それはどれだけ石鹸で擦っても落ちない汚れみたいに、私の中に住み着いて、決して逃そうとはしない。それが「……運命、か」
全てを忘れてしまえたらラクなのかな。あの頃みたいに。何を忘れたのかさえ思い出せないまま、気が付けば忘れてしまった。きっと色んな事。浴槽に浸かり、自分の指を眺める。

「……え」

瞬間、私は気付いてしまった。
私の中に住み着いて、遂に姿を現した、或る小さな変化に。
思わず鏡を覗く。自分の目を見る。それから肌。それから髪の毛。「……嘘でしょ」
心臓がドクンと一回、大きく波打つ。予感。不安。湯気が鏡を曇らせて、私の姿は、すぐに消えた。それはまだ、とても小さな変化で、私以外には気付かないはずだった。
だけれど、いずれ皆、必ず気付いてしまう。

トプン。
音を立てるように、私は息を止め、浴槽の中に潜った。
目を閉じて、膝を丸めて、温かい水中で、あまり何も考えずに、一人で泣いてみた。
誰にも気付かれてはいけない。だけれど必ず気付かれてしまう。私に訪れた小さな変化は、ゆっくりと蝕むように、私を音も無く壊してしまうだろう。だから、今は一人で泣いた。
水中に響いていたのは心音。
唯、私の心音――。

――二週間後、私はパーマをかけた。
お気に入りだった真っ直ぐ伸びた髪に、かなり派手なパーマをかけた。
最初に見たのは、恋人。

「……何それ?」
「何それって、別に、パーマだけど」

私は素っ気無く切り返すと、台所に立って湯を沸かした。

「……何で勝手にパーマかけたんだよ?」
「何でって、髪型変えるのに、わざわざ君に相談するルール、あったっけ?」
「……何だよ、その言い方」

恋人は怒っている、と思った。だけれど出来るだけ、何も考えないようにした。
痛い事も、辛い事も、あまり考えないように。出来るだけ、一切の感情を殺すように。
そうしなければ、これから訪れるであろう、もっと大きな変化に、きっと私は耐えられない。

「それに何で最近、いきなり肌が白くなってるんだよ、それも勝手に何かしたのかよ?」
「別に、何にもしてないよ」
「大体、君は何時も勝手なんだ。勝手に決めて、何処かに行って、勝手に帰ってくるんだろ」
「それは学校とか、バイトとか、路上の弾き語りじゃない。別に遊んで歩いてる訳じゃな……」

止めた。これ以上、何も言いたくなかった。喧嘩なんてしたくも無いし、言い争いもしたくない。何かを失いたくて、こんな真似をしている訳じゃない。只、私は、只――。
「ごめんね、心配かけて。……一緒にスープ飲む?」
私は恋人に、お湯を入れたばかりのインスタント・スープを手渡した。
静かに湯気が立っていた。
二人で並んで唇を付け、それ以上、私も彼も、もう何も言わなかった。

真夜中。
恋人が眠っている隣で、私は目を覚ました。
テーブルの上には、あの分厚い便箋が置かれたままだった。

(……JNL)

全ては変化している。一秒毎に。こうしている間にも、また一秒が進んだ。
そうして私は、0と1の狭間を、何度も、何度も、繰り返す。
何処かで止めなきゃ、私の狂った一秒を。
そろそろ元に戻さなきゃ。

そして私は、便箋に、触れた。

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