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一日目:蜜編 現在 02話

「アタシ、その人と一緒に、ノートン教授に会いに行こうと思うの」

そう言った瞬間のみく子の表情を、きっと僕は忘れないだろう。
それはあまりにも何気ない台詞に忍ばせてしまった病的なまでの覚悟に近く、例えばレンタル・ビデオを借りたい人間が「ビデオを借りに行こうと思うの」と言うような、能天気な発言とは程遠く、かと言って自殺志願者が「死のうと思うの」なんて言い出すような、絶望的で刹那的なヒロイズムすらも、漂ってはいなかった。

確定された未来。
もしくは、確定された未来に対する反抗。
みく子が卵白のように透き通った顔を近付けて、僕の唇を舐めた。
僕の唇を舐めた後で、その舌先をペロリと味わい、続けるように繰り返した。

「アタシ、ノートン教授に会いに行くの」


【M線上のアリア】 現在/02


「ちょっと待ってくれ、話が見えないな」

点けっ放しのテレ・ビジョンからは、呑気な音楽が流れている。
ワイドショーのショッピング番組。
新製品のアイロンを買うと、今ならもう一台、アイロンが貰えるらしい。
家庭にアイロンが二台ある必要は無く、それは心底どうでも良い情報のはずだった。
ところが、その瞬間、みく子は言った。

「アイロンが二台あるの、古いのと、新しいの。
 ……ううん、違うわね、変わらないモノと、変わりゆくモノ。
 ねぇ、蜜クン、どちらも同じモノよ、だけれどアタシ、どちらを選ぶべき?」

みく子は唇の端だけで小さく笑いながら、確かにそう言った。自嘲的と言える笑い方だった。それは「みく子らしい」笑い方では無かった。だけれど、そもそも、「みく子らしさ」とは何だ? そんなの一体、誰が決めた事なんだ?

「……話がよく解らない。
 何で、その大学の友達と、そのナントカ教授に会いに行きたいの?」

僕の問に対して、みく子の返答は普段通りのみく子の返答だった。
特に飾らず、特に焦らず、要点のみを正確に伝える為の、簡素な返答だった。

「教授なら、その答を知ってそうだからね」
「答?」
「どちらを選ぶべきか、よ」

みく子の目は笑っていなかった。
その瞬間のみく子の目を、僕は以前にも一度、何処かで見た事があった。
変わるべきか? 変わらざるべきか? そんなの僕には解らない。考える理由が解らない。

「……大学の友達って誰だい?」
「……それはね、」
「男だろ?」

言いかけた瞬間、ショッピング番組のテーマと、携帯の着信音が重なった。
みく子の携帯が、場に似合わない、軽快な音楽を鳴らしている。
それは「スーパーマリオの無敵状態のテーマ」だ。

みく子は立ち上がり携帯を手に取ると、着信の主を確認した。
通話ボタンを押して耳に当てながら「もしもし……」と言って台所に移動する。

小さな声。
うん、うん、うん。
相槌しか打たない時、大体相場は決まってる。
相手は男だ。

こんな大切な話をしている時に、男から電話がかかってくるのも如何なものか。
路上で歌っているみく子の周りには、確かに沢山の男友達がいるのは承知の上だ。
だが、今この瞬間に電話をかけてくる事は無いんじゃないかと考えると、少し苛立った。

「みく子」

背後から、わざとらしく声をかけてみる。
みく子は返事をしない。
返事をしない代わりに、みく子の目だけがコチラを向く。
僕としても返事を期待している訳ではなくて、僕の存在を知らせたいだけだ。
それが受話器の向こうの相手に伝わりさえすれば良い。
もう一度、今度は大きめに。

「みく子?」

みく子は慌てたように声を詰まらせると、無言で頷いて、電話を切った。
通話を終えた携帯画面と親指を眺めて、みく子は数秒、動かなかった。

「ほら、男だろ?」

からかうように、僕は言った。
決して嫉妬染みた言い方をした訳では無かった。
先程の会話の続きをするように、嘲笑染みた言い方をした、が正しい。
みく子が申し訳無さそうな顔をして振り向けば、それで満足だった。
ところが振り向いたみく子の反応は、まるで予想外だった。

「ねぇ、どうして? どうしてアタシの邪魔をするの?」

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