スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

二日目:蜜編 現在 09話

午後七時二十分。
完全に遅刻した足を交互に一歩、一歩と呑気に進めると、飲み屋通りが見えた。さて何と言って謝ろうか。遅刻の理由のストックには事欠かない。今日は「秋場所中に半月板が損傷した」で行ってみようか。本来であれば休場も止む無し。横綱昇進危うし。

従業員専用の扉に手をかける。瞬間、突風が吹いた。前髪が揺れる。その隙間。
店の正面に飾られた赤提灯の端が、大きく一度、風に流される光景が見えた。……赤提灯? この店の正面に赤提灯なんて飾られていたか? 見間違いかもしれない。改めて右手に力を込めると、扉を開ける。

「すいません! おはようございます! 遅刻しました! 理由は半月板の損しょ……」
「あれ? 蜜くん、久し振り、何してるの……?」
「……はい?」


【M線上のアリア】 現在/09


カヨリさんが一年振りに再会した友人でも見るような目で、僕を見た。カヨリさんは何時も通りの和服姿で、生ビールの樽を運んでいる最中だった。白く細い腕に握られた、鉛色の生ビールの樽。淫靡と言えば、淫靡な光景のようにも見える。僕は先程の台詞も理解せぬまま「あ、良いッスよ、僕がやりますよ」などと、如何にも定刻通りに出勤した従業員のような口調で近付くと、カヨリさんの手から生ビールの樽を奪った。

「あ……ありがとう。というか蜜くん、どうしたの?」
「え、何がですか?」
「いや、急にウチに顔を出すなんて。いや、別に変な意味じゃなくってね」

カヨリさんが歯切れの良くない口調で言うので、僕は怪訝な表情をした。急にウチに出勤するも何も、従業員が出勤日に出勤するのは、当たり前だ。店が回らなくなる。変な意味も何も、僕としても毎月給料が欲しいし、あ、タイムカード。

僕は生ビールの樽を事務所裏の床に置くと、タイムカードを探しながら間抜けな顔で「いやはや、秋場所で半月板を損傷して、遅刻してしまいました」などと、何度か使い古した遅刻の理由を、改めて披露した。大体、この理由を言うと、カヨリさんは笑って許してくれる。ちなみに半月板を痛めるのが何場所かは季節によって異なり、春場所にもなるし、時には千秋楽にもなる。今回は秋場所が正しい。

「タイムカード、タイムカード、……あれ? カヨリさん、僕のタイムカード無いですよ?」

僕が振り返ると、カヨリさんは困惑した表情で立っていた。困惑どころか、軽い恐怖の表情にも見える。どういう事だ? まさか今日は僕の出勤日じゃなかった? いや、それにしては様子が変だ。カヨリさんは目を離したくとも離せなくなってしまったような面持ちで、僕を見ている。そう、昨夜、悪魔を発見した時の、僕のように。瞬間、通過する、頭痛。……痛ッ!

「……何だ?」

僕は思わず額に手を当てる。昨夜、悪魔が触れた部分だ。二日酔い。違う。穴に落ちたような痛み。何だ。欠落。残像すら見えはしない。暗闇。空虚。記憶を食う瞬間の悪魔。

「……痛ッ!」
「……大丈夫、蜜くん、やっぱり様子が変よ?」
「……カヨリさん、もしかして僕、今日は出勤じゃなかった?」

額を押さえながら、誤魔化すように問う。我ながら、何だこの汗は。額が濡れ雑巾で拭き散らかしたかのように、濡れている。乾いた雑巾は何処だ? カヨリさんが僕に駆け寄る。それが見える。カヨリさんが和服の袖を捲くりながら、僕の額に手を当てる。

「やっぱり! すごい熱! どうしたの!?」

……熱? 熱で済むなら安いもんだ。遅刻の言い訳としては。カヨリさんは僕を事務所のソファの上に寝かせた。慌てるように厨房に入り、数十秒後に戻って来る。ビニール袋に氷が入っている。それを僕の頭に乗せる。

「ごめんね、これから忙しい時間だから、これくらいしか出来なくて。
あとで薬、買ってきてあげる。それまで少し、此処で寝ていて。熱に魘されたのね。
それにしてもエリカちゃんが帰った後で良かったわ。蜜くん、どうして急に、ウチなんかに?」

カヨリさんは随分と冗舌に話した。エリカ? そういえばエリカと長い事、会ってない気がするな、と僕は思った。以前は毎日のように会っていたのに。何で会わなくなったんだっけ……?

激痛。
エリカの顔が、よく思い出せない。そんな訳は無い。エリカの事は昔からよく知っている。小学二年生の春の日から知ってる。生意気なクソガキだ。金持ち。お嬢様。高飛車。泣虫。弱虫。エリカ。エリカ。エリカ? どんな顔だった? 僕は何時からエリカに会ってない? 痛い。

欠落。激痛。それから間抜けに落ちるような、二度目の失神。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪二日目:ちこ編 04話 | TOP | 二日目:蜜編 現在 10話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。