なんだか雲行きが怪しくなってきている。
僕はあれからずっと『ふろーら・しょうだ』がある路地にいる。
ここで待っていればまた「蜜クン」に会えると思ったからだ。
というか、いつまで僕はあの背が高い男のことを「蜜クン」と読んでいるんだろう。
バカバカしい。みく子を泣かせるようなヤツなんだから「ミックン」で充分だ。
僕は得意げに大学ノートを開き修正を加えた。
「蜜クン(ミックン)」
ふん。と大学ノートを閉じた。
そう言えば『ふろーら・しょうだ』からは、忙しそうではあるもののずっと楽しそうな関西弁が聞こえていた。
「志津さん・・・だったっけ。」
元々友達付き合いというものが解らない僕が、みく子を介して沢山の人と友達のようにはなったけれど、その一人一人を僕はあまり覚えてはいない。
「志津さん」もそのうちの一人だとは思う。
でも、なんだろう、何か思い出せそうな気がする。
あれは確か──。
※
「みく子?、あんたほんとに顔広いよね」
「そうでもないよー。みんながみんなと繋がってるからだよ」
「そうかもしんまい」
「じゃぁ、私行くね。またね志津ちゃん」
そう言って軽く手を振ってみく子は行ってしまって、僕はその姿をぼーっと見てたんだ。
「ちょっと!そこのおまいさん」
急に声をかけられてオドオドしながら見上げると、そこにはさっきまでみく子と話していた女の子がいた。
「んふー(にやり)」
「な、なんですか?」
「ホの字だねぇい」
「!!!」
「あの子を狙ってるの一人やニ人じゃないんだよー?」
「…」
「ま、精々頑張ってみることだわねぇい!」
バチンと背中を叩いて、その子は誇らしげにどこかへ行った。
「別に君がモテてる訳じゃないのに…」
そう小さく呟いたら、その子が鋭く振り返ったのが印象的だった。
※
そうか、あの時僕の背中を叩いた女の子だ。
「志津さん」と言うんだったな。