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二日目:蜜編 現在 12話

世界はクール・ダウンする。
昼間の内に溜め込んだ太陽の熱は月の上昇と共に緩慢に奪われて、それが真上に来る頃には音さえ少なくなる。それでも飲み屋通りの片隅には、雑談と、喧騒と、歌声が響いていた。先日までの話だ。今は何も聴こえない。遠くからタクシーのクラクションが聴こえるが、何かを呼び止める為の音では無い。僕と悪魔は肩を並べて、赤信号の横断歩道を小走りで渡った。やがて小さな公園が見えると、その錆びたブランコの上に腰をおろした。なので世界には今、悪魔が漕ぐブランコの音だけが鮮明に響いている。


【M線上のアリア】 現在/12


悪魔は片手で肉まんを食べながら、ブランコを漕いだ。何処から出しているのか知らないが、どうせ誰かの記憶の中から出しているのだろう。ピンク色のジャージを出したのと同じように。否、もしかしたら腕の立つマジシャンなのかもしれない、やはり。仮にそうだとして、僕が記憶を食われたのは事実だ。腕の立つマジシャンの正体が悪魔なのかもしれない。先刻から数えて五個目の肉まんを食べながら「記憶を食われる法則に、気付いたか?」と悪魔は言った。

「法則? さぁね、悪魔に律儀な法則なんかあるのか」と、僕は恍けて答えた。悪魔が質問する意図が見えなかったからだ。ところが悪魔は「何だ、お前は意外と勘の鈍い奴なんだな」と面白そうに笑った。自分が出題したなぞなぞに答えられなかった小学生を馬鹿にするような、見下すような笑い方だった。なので僕は思わず「何個かの法則には気付いた」と言った。

「ほう、何に気付いた?」
「悪魔にも好き嫌いがある。記憶を食べる部分と、残す部分がある」
「ほう、よく気付いたな。だがそれは個人の好みだからな、あくまでも俺の好みだよ」

そう言うと悪魔はブランコを漕ぐのを止め、食べかけの肉まんを地面に捨てると、それを足で踏み付けた。砂にまみれた肉まんが無残に転がった。悪魔は笑いながら「昨夜は試食だ」と言った。「試食?」

「そうさ、お前の願いに対して、非常に解りやすい部分を食った、気付いただろ?」
「……僕が外に出たくなくなった理由か」
「そうさ、あの部分を食えば、お前は外に出るはずだからな、事実、今、お前は此処にいる」
「……悪魔の好みって何だ?」

悪魔は答えた。甘美な記憶。切なく、苦しく、歯痒い記憶ほど甘美なものは無い。誰かを愛し、それが叶わない事。誰かを憎み、それが癒されない事。何ひとつ上手くいかない事。嘘。猜疑。怠慢。それらの記憶は甘美だ。それ以外の記憶は味が落ちる。幸福な記憶は論外だ。一際、酷い。だから俺は幸福者に近付かない。価値が無いからだ。お前の記憶は美味いぞ。自分じゃ何も出来ないくせに、世界を変えたがっているんだろ? 甘美だ。笑えるくらいな。

「……笑えるくらい?」
「頭痛かったろ、目が覚めた時。試食なのにあんまり美味くて食いすぎちまった」
「……痛かったね、二日酔いみたいなもんかと思った」
「イエス、良い喩えだな。まぁ、次第に馴れてくるはずさ、俺達は長い付き合いになる」
「……長い付き合いね」

悪魔の法則。悪魔は甘美な記憶を好む。甘美とは、人間の感覚とは正反対。切なく、苦く、辛く、歯痒い記憶を、悪魔は好む。食われた記憶は欠落する。思い出す事は不可能だ。悪魔は記憶を食った代償として、記憶を食われた媒体の願いを叶える。それが契約だ。しかし悪魔が叶えられる願いとは、どの程度まで可能なのか?例えば、僕は明日、みく子を救えるか?

「悪魔、僕は明日、恋人を救えるか?」

「どんな方法で?」と答えて、悪魔は笑った。笑いながら再び、ブランコを漕ぎ始めた。錆びた音が世界に広がり始める。「漠然としてるな、その願いは」悪魔は言いながら、夜空の月を眺めた。雨上がりの夜空は雲が多く、その隙間に月が浮んでいる。台風前の、束の間の静寂。

「お前は、ある日突然 "自分を月に連れていけ" と願うのか?
月に行った後はどうする? 呼吸が出来なくて、すぐ死んじまうんじゃないのか?
月に行ったら、どうやって過ごす? 地球に帰りたくなったら、どうやって帰ってくるんだ?
イメージが足りなさ過ぎやしないか? 貧困で漠然とした願いが叶うとでも思っているのか?
充分な知識を蓄えておけよ、それが記憶になる。俺はお前の、その記憶を食うんだからな」

視線を月から、僕の目に移して、悪魔は付け加える。

「月に行きたいなら、ロケットを出せ。宇宙服を出せ。宇宙食を用意しろ。
帰りの燃料を積んでおけ。無線は必要か? 耐熱版が損傷した時に、修理出来るのか?
それくらいは考えておく事だ。じゃなければお前は月に行っても、すぐに死んで終わりだぜ」

そう言って、面白そうに笑った。

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