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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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一日目:サク編 01話

 秋に入り始めの寂しさは、単純な人恋しさとは違うと思う。
 そんな生々しいものではなくて、もっと乾いていると僕は思う。
 大切な人に会いたくなる、とかそういうことじゃない。言ってしまえば、誰かと一緒にいても寂しい。そういう季節だ。冷たくなった空気に脅かされて、周りの広さに気づく。そして足りないものを探してしまう時期。これは自分に足りない対象が見つからない寂しさなのだ。寂しさに汚染されると言えば、僕にはしっくりとくる。
 目の前に本を開きながら、何も集中出来ていない今の僕には。
 大学の図書室の窓はどこの馬鹿が空けたのか全開で、でも夏の残り香のする午後の風が割合暖かくてあえて誰も閉めないままで、机の上に本を載せて授業で必要なものを調べてる僕には、ペラペラ舞おうとする小難しい本のページが邪魔だった。
 僕は気づいていた。
 長方形の大きな板をそのまま浮かせただけのような大きな机には、六つの椅子が行儀よく並んでいて、僕の対角線上に嫌に肌の白い女の子が座っていた。
その女の子は白く華奢な手と全く似合わない、人を殺せるような黒い分厚い本のページを重そうにめくっている。
 僕は気づいていた。
 彼女のせいで、全く自分の本に集中出来ていないことに。
 風が吹いた。
 彼女の何だかなぜか癖が残っている髪を横に流す。
 そして僕は信じられない気持ちで、小さく呟いてしまう。
「みっこ……?」
 彼女がこちらを見た。
 目をまんまるに見開く。
 その雰囲気は全然違うけど、まだ面影が残っている。
 間違いなくみっこだった。
「サクちゃん……?」
 みっこは中学生の時の同級生で、クラスが同じだった。
 同じ班になって、その班で修学旅行に行った。
 仲が良かった。
 僕は彼女を忘れていないくらい仲が良かった。だけど、ただ仲が良かっただけだった。そして彼女は別の高校に行った。僕より頭のいい高校だった。僕には到底行けないような高校だった。だからそこで僕と彼女は別れてしまった。でも、僕は忘れていなかった。風の噂で彼女が同じ大学に入ったと聞いた。時折構内ですれ違うことはある。でも僕はただ見ているだけ。何を今更、という感情が僕の中に渦巻くのだ。僕は確かにみっこを忘れてなんていない。でも、何を今更、だ。みっこは僕をきっと、忘れているのだ。だから今まで声をかけたことがなかった。
 しかし今ここで声をかけてしまったのは、もっと単純に驚いてしまったのだ。みっこは昔から、中学の頃から、微かにオレンジがかかった髪が似合う、優しくて笑顔の似合う女の子だった。でも、今のみっこには以前の血色が良さそうで利発そうな雰囲気なんて欠片もなくて、逆に、肌が薄ら白くて病人のような雰囲気を湛えている。それがまた窓からの秋の陽を浴びて、きらきらと光っているようだった。窓辺に置かれた繊細なガラス細工を思わせた。触れてしまえば折れてしまう気がするほどの。イメージチェンジだろうか。でも、その域を超えてしまっているように思う。
 この前大学内で見かけた時は、以前のままのみっこだったのに。
 この短期間で何があったのだろう。僕には分からない。僕とみっこの間には、今は遠い距離があるから。みっこがイメージチェンジをする理由なんて知りえるはずがない。僕が知っているみっこは、中学までなのだから。この言葉を交わさなかった間に、みっこに何があったのか、僕は知ることが出来ない。
 僕は思わず立ち上がって、みっこの側まで歩いていった。
「久しぶり」僕はとりあえず、それを言った。
「久しぶり」みっこもにっこりと笑ってくれる。
「みっこ……だよね?」
「ふふ、うん、そうよ。やっぱり雰囲気違う? みんなに言われるの」
「そんな、声まで変わって……」
「やーね、それは気のせいよ。何年ぶり?」
 そこまで言って、僕らはお互いに「あ」と気まずそうに俯いた。
 気づいてしまったのだ。
「……大学で会うのは初めてね」
「やっぱり知ってたんだ。同じ大学だって」
「あ……、うん、ごめんね」
 みっこには今、彼氏がいる。
 僕はその事実を知っていた。
「いや、何で謝るの。本当、久しぶりだね。雰囲気も凄い変わった、大人っぽくなったよ。それに、昔は本なんて読んだっけ? 何読んでるの?」
 僕が覗き込むと、みっこは軽く笑いながら静かに本を閉じた。閉じる前に、ページの中で見えた小さな見出しの言葉は「アルビノ」。閉じた本の表紙には「一般動物に見られる遺伝的病症」と書かれていた。
「……難しいの、読むようになったんだね」
「ん、ううん、大学の論文のためなのよ」
 どこかぎこちなく、みっこは言った。
 その顔があまりにも遠くて、僕は言葉を失う。
 しばらく、みっこも話さなかった。
 みっこの肌を風が通う。
 白い肌の上に粒子が踊ってるような気がした。
 腕が細くて、白く、冷たそうだった。
「あのね、サクちゃん。アルビノって……知ってる?」
「アルビノ?」
 どこかで聞いたことある。先ほどの本に書かれていた言葉。一般動物に見られる遺伝的病症。僕の貧困な脳はなぜか動物園や水族館を思い浮かべて、そしてそれは運よく正解を気づかせてくれた。「一般動物に見られる遺伝的病症」アルビノ。遺伝的な性質だ。
「ああ、あの、生まれつき白い動物のことでしょ?」
「そう、遺伝がどこか違って、メラニンを作れないんだって」
「へぇ、美白ってことなんだ」
 僕は笑った方がいいと思って笑った。
 みっこの顔が妙に悲しげだったから。
「そうね」と言いながら、みっこはなぜか儚く微笑む。
 その笑顔にハッとした。
 僕はもっと早くみっこに再会すべきだった気がした。もっと早く、もっと早く出会っていれば。あの頃の明るく元気なみっこと別れなければ。こんな笑顔を見ないで済んだだろうか。僕は何かを留めることが出来ただろうか。あるいは、取り戻せたというのだろうか。僕はどうしたと言うのだろう。何もかもが変わっていくのだ。
 僕らの間には、今、遠い距離がある。
 嘆いても叫んでも、埋められないほどの距離。
 僕が知っているみっこは、どこかへ行ってしまった。
 みっこは、変わっていくことを望んだのか?
 漂白されたような白い横顔。
「みっこ……、そのアルビノって、どんなの? 僕、水族館でしか見たことなくて」
「うん、色々大変みたい。視力が弱いとか、紫外線に弱いとか」
「生まれつき?」
「うん、そうみたい」
「……そう」
 みっこがふいっと横を向いて、時計を見た。
 そしてこちらを振り返ることなく立ち上がった。
「ごめんね、もう行かなきゃ。また……」
「うん……。あ、その本、重いだろ。僕、片付けとくよ」
「本当に? ありがとう」
 みっこはずっとこちらを見ない。
 僕はその背中を、ずっと見ていた。
 ずっと見れなかった、背中。
 触れたいと幾度となく願った小さな背中。
 その背中が震えてる。
 彼女が歩いていく。
「サクちゃん、あのね」
「何?」
「いけないことだったのかな。変わってくっていけないことだったのかな? 私、怖いの。何だか怖くて、そんなの見てた。遺伝って、変わらないイメージあるじゃない? ずっと大切に伝わってく。そんなイメージ。でもアルビノって見つけて……。ああ、いきなり変わっちゃうんだなぁって。何だか白すぎるってよく言われて、そんなの見てた。私、自分がどうなっていくのか、怖いの」
 そう言って、みっこは背中を震わす。
「何か、あったの?」
「ううん、別に何もないわ。ただ、急に不安になっちゃって。サクちゃん見たら、何だか、色々思い出しちゃって。高校と今までの大学で私、変わっちゃったでしょ? もしサクちゃんと一緒の高校に行ってたら、結局同じ大学に来たかもしれないけど、変わらずいられたのかなぁって」
 みっこはポケットからハンカチを出して、顔に持っていった。
 表情は見えない。ずっと振り返らないままだった。
 まるでもう僕を見たくないかのように。
 そのままみっこが歩いて廊下に出たのを、ただ僕は眺めていた。
「みっこ……」
「お願い、来ないで。お願い……。お化粧、剥がれちゃってるの」
 瞬間――
 僕は図書室の扉に向かって走った。
 ドアをつかむ。
 なぜか、そこから先は走れなかった。
 例えそこから走っても、みっこには決して追いついてはいけない気がした。
「みっこ! それでも僕はまたみっこと会えて、嬉しかった!」
 みっこは廊下を駆け出した。
 ハンカチがモルタルの床へ花びらのように落ちた。

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