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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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二日目:蜜編 現在 13話

台風前の月は穏やかに見えるが、それは気のせいかもしれない。
月に行きたい、とは思わない。僕が感じるそれは恐らく、退廃的な思考以外の何物でもないから。地球から月まで。380000km。僕とエリカの距離。互いに振り切れなかった引力の距離。僕がみく子を救うなら、更に何万km、世界を彷徨う必要がある? そこに引力はあるか?

月に行くなら、まずロケットを望め。宇宙服を望め。宇宙食を望め。行きたいと願うだけで行けるなら便利だけれど、行ったところで死ぬだけだと、悪魔は言った。正論。僕がみく子を救うには、何を望めば良い? 救ったところで死ぬだけか、悪魔。アルビノ。みく子は、世界は白く染まるだけか? 失敗したバイオロイド。みく子。世界に色を付ける為に、僕はどうするべきだ?

「お前の力は完全か?」僕はポツリと尋ねる。
「どういう意味だ?」
「お前の記憶を食う力、願いを叶える力は完全か、という意味だ」
「完全だ」

そう答えると、悪魔は六四符的に「ククク」と笑った。
「何が可笑しい?」
「いや、人間共は遅かれ早かれ必ず、我々にその質問をするんだな、と思ってさ」
「お前の力が完全ならば、やっぱり今すぐ僕の恋人を救う事も可能なんじゃないのか?」
「ノー。それは無理だ」


【M線上のアリア】 現在/13


悪魔は静かにブランコを揺らしながら、「完全と対価は、まったく別の意味だ」と言った。
「どういう意味だ?」
「あくまでも代償だ、言ったろ?」悪魔は演説でも始めるように、咳払いをする。

「それを奇跡と呼ばせる悪魔もいるがね、俺はその呼ばせ方が好きじゃない。
俺が叶える願いは、お前の記憶の代償だ。それは等価値だ。
例えばお前が "鳥になりたい"と願ったとしよう。俺はその願いを叶えない。何故ならお前の記憶の中に、お前が鳥に生まれ変わるのに等しいだけの記憶など存在しないからだよ。俺がお前を鳥に変えた瞬間、お前は死んでしまうだろうね。記憶が一個も残らないからだよ。心臓の動かし方さえ忘れてしまう。それでも対価として、まだお前の記憶は足りない。お前は俺に借金しながら死んでいくようなもんさ。お前の記憶は全然足りない」

瞬間、悪魔は指を鳴らす。
すると手の中に、小さなハーモニカが現れた。
吹くのかと思いきや、それを吹く訳でも無く、悪魔は話し続ける。

「例えば、お前が"一流ミュージシャンになりたい"と願ったとしよう。
それも俺は叶えない。今のお前の中に、その願いに値するだけの記憶が無いからだよ。お前が俺にそれを願うなら、同等の価値を持った記憶を用意しろ。それは経験とも呼べる。毎日ギターを練習して、作曲でもして、ボイス・トレーニングにでも励んでみれば良い。それは願いと等価値の記憶になる。準備が出来たら、改めて俺に願うといい。お前が積み上げた経験という名の記憶を食って、俺はお前を一流ミュージシャンにしてやるよ。でもそうなってる頃には、わざわざ俺に願わなくとも勝手に一流ミュージシャンになってるだろうがな」

悪魔は愉快そうに笑うと、ハーモニカを口に当て、音を出した。
それは綺麗な音色だった。「昔食った奴の、記憶の中の音色だ」と悪魔は言った。
音を止めると、悪魔は話し続ける。

「じゃあ俺の力は、一体何の為にあるのかって?
記憶と代償は等価値だ。だから仮にお前が一流ミュージシャンになってるとして、必要に迫られて"俺を一流プロ野球選手にしてくれ"と願うなら、俺はその願いを叶える。お前は強靭な肉体を得て、160kmの剛速球を投げ、バックスクリーンに飛び込む特大のホームランを打てるようになる。その代わり、お前は音楽に関する一切の記憶を失うという訳だ。解るだろ?」

悪魔はハーモニカを、僕の目前に突き出した。
そして僕の目を真っ直ぐに見て、繰り返すように「解るだろ?」と言った。

「改めて言うぞ。記憶と代償は、等価値だ。そこに優劣は無い。
お前が俺に差し出す記憶と、俺がお前に与える報酬は、等価値でなければならない。明日、お前が恋人を救えるか? 無理だ。漠然としすぎている上に、巨大な願いだ。お前は死ぬね。それでも対価として、お前の記憶は足りない。まだ未熟なのだよ、お前は」

続けて高笑いして、一言。

「誰かを救うには、あまりにも未熟すぎる」

そこまで言うと、ハーモニカを吹きながら、悪魔はブランコを揺らした。僕は何も言えず、その姿を眺めた。記憶の対価。それは等価交換。未熟な記憶では、相応の報酬しか得られない。それは経験と同義。僕の経験では、みく子を救う事が出来ない。

「……分割払いってのはどうだ?」
「はははッ!」と発声練習でもするように、悪魔は笑った。
「よく思い付いたな、確かに悪魔の中には、記憶の分割払いを認めている奴もいる」

「だが、」と悪魔は言葉を続ける。

「俺は記憶の分割払いは認めない。リスクが大きいのでな。
支払いの利子で、お前はパンクするかもしれないよ。お前が支払いを終えるまで生きている保障も無い。俺はそういうリスクを背負うのは嫌いだ。俺の契約では、分割払いは認めない。一括でお願いしたいね」

「どうしても、僕に成長しろと言うんだな」
「解りやすいだろ、記憶とは成長に応じて増えていくものさ、それが健全だ」
「だけど、今は時間が無い。僕は今すぐに恋人を救いたいんだ。どうすればいい?」
「短期間で一気に成長しろ。出来るはずだ。それまでは細かな記憶を切り売りするがいい」

悪魔は立ち上がると「行け、そろそろ行動するべきではないのか?」と笑った。
「……僕を助けてくれるのか?」
「別に。面白いだけさ」
「面白い?」
「一人じゃ何も出来ないくせに、世界を変えたいんだろ?」

言いながら、僕にハーモニカを渡す。冷たい。銀色。

「悪魔、お前は僕の味方か?」
「別に。それに悪魔にも色々いる。悪魔は俺だけでは無いからな」
「悪魔、僕に恋人を救う事が出来ると思うか?」
「それが面白そうな世界なら、俺がお前を導いてやるよ、お前が俺に記憶を提供する限りな」

僕は悪魔のハーモニカを、ジーパンのポケットの中にいれた。
それから自分が何処に行くべきかを考えた。深夜。台風直前。月。引力。
「悪魔よ、僕が何処に行くべきかを教えろ、それが次の願いだ」僕は悪魔に、そう言った。

「イエス、良い願いだ」

悪魔は僕の額に人差し指を当て、メスで切開するように、その指を動かした。それから記憶を吟味して、静かに笑った。笑った後で、こんな事を言い出した。

「……ならば相応の記憶を食うぞ、おっと、その前に」
「……何だ?」
「そろそろ人格を持って呼んでもらいたいね、単に"悪魔"と呼ぶのではなくて」
「……人格?」

悪魔は何度も笑う。

「羊、俺達は共生関係に入った。悪魔と人間の契約関係ではあるが。ならばお前は、俺を人格として認めなければいけない。生物は名前を呼ばれて、初めて本当の意味で生き始めると思わないかね? 羊、お前と俺を分かつ為の名前だよ。名前が俺の命になる」
「……名前?」
「名前を呼べ、羊、それが我が命だ」
「命?」
「名前を呼べ、羊、それが我が命だ」

僕の額を切開しながら、もう一言。

「我が名は"ヴィンセント"だ、決して忘れるな」

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