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一日目:蜜編 現在 03話

邪魔をする? 誰が? 僕が?
僕がみく子の邪魔をしている? 何の為に? いや、邪魔などしていない。
電話の相手は男だったんだろ? とからかっただけだ。嫉妬心は否定しないが、それだけだ。

「どうしてそんなに感情的になる必要がある?」

言った瞬間、僕は口を押さえた。
みく子の目に涙が浮かんでいたからだ。だが、一体どうして?
みく子が泣かなければならない理由なんて無かったはずで、僕が口を押さえる理由も無い。
何ひとつ無いはずだった。

「変わってしまうの、怖いの」

涙が溢れて零れ落ちるのと同時に、みく子は言った。
それはまるで謎だらけの台詞だったけれど、核心に触れた台詞だという事は解った。
何かを焦っている、みく子は。
でなければ外見的な性急すぎる変化も説明が付くはずがなかった。
そこに触れずに済むならば、それに越した事はなかったけれど、もう無理なんだろう。

「ねぇ、邪魔しないで……」

「邪魔なんてしてないよ、だけれど教えてくれ」

「変わってしまうの、怖いの、毎日そればっかり考えてるの。
 何とかしたいのよ、アタシ。だから考えたの。考えたのに、邪魔しないでよ。
 きっともうすぐ壊れてしまうの、アタシ……」


【M線上のアリア】 現在/03


水風船を破裂させたように、みく子は泣いた。
みく子の中に針を刺したように、しばらくの間、泣き喚いた。
それは確かに「みく子らしくない」行為ではあったけれど、もうどうでも良かった。

「スープ、飲む?」

僕は立ち上がると台所に向かい、インスタント・スープを手に取った。
棚から容器を一つ取り、ポットのお湯を確認すると、それを粉を入れた容器に注いだ。
ショッピング番組の呑気な笑い声が聞こえる。

「飲んで」

みく子は容器を受け取ると、真赤な目をして、それを口に運んだ。
涙でみく子の化粧が剥がれている。
病的な白。

「どういう事か、ちゃんと聞かせてくれないかな?」

言った瞬間、みく子の肩がビクリと動いた。怯えたウサギのようだった。
みく子は不器用な所作で容器を床に置くと、足下の一点を見詰めて、また止まった。
恐らく的確な言葉を探しているのに、まるで見付からないような表情だった。

「僕はさ、みく子……僕は何の邪魔をしたのかな?」

やはり小さく怯えた後で、みく子は静かに口を開いた。

「変わっていくの、アタシ。
 もう自分でも追い付けないくらいよ」

「……変わっていく?」

「特にここ数日は酷いの。
 体中の色素が漂白されていくみたい。
 目の前の色が、次第に何も無くなってしまうみたい」

「……色が無くなる?」

そこまで話すと、みく子は掌を広げた。
みく子は掌を見詰めると、また自嘲気味に笑ってみせた。

「白いのね、色が無くなると。
 汚れるのなんて厭だって思っていたけれど、汚れないのも怖いのね。
 ああ、それともこれは、戻っていくと表現した方が正しいのかもしれないわね」

「……みく子?」

「アタシ、ゆっくり壊れていくのよ、解る?
 体中が白く染まって、髪の毛も無くなって、目も見えなくなるわ。
 それから声も出せなくなって、もうじき歌も唄えなくなるわ。
 そうして最後は、私の体も無くなっちゃうのよ」

「……何それ?」

みく子は広げた掌を、僕の目の前にかざした。
そうして僕の目を塞ぐと、そのまま僕の顔を自分の胸に埋めて、抱き締めた。
数秒間、そうしていた。
閉じられた視界の中で、ショッピング番組の呑気な笑い声が聞こえた。
みく子の心音と、声も。

「……アルビノ、知ってる?」

みく子は細い糸を切った瞬間のような、小さな声で言った。
アルビノ? よく解らないが、遺伝情報が欠落して、生物の色が白くなる事、だったか。
昔、水族館で見た水棲生物が、確かそれだった気がする。
みく子の心臓が、大きく鳴るのを感じた。

「欠落した遺伝情報がアルビノなら……。
 欠落したアルビノは、一体何と呼ぶのかしらね」

みく子は言って、そのまま僕は、目を閉じた。

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