エリカの家はかなりのお金持ちだ。
それは気味の悪いキンピカのオブジェが並んでいるのではなくて、センスの良いアンティークっぽい家具、照明などが行儀良く設置されているのを見て解った。
エリカは自分の部屋に案内しながら「普段は誰もいないから」とだけ言っていた。
エリカの部屋はここまでの本物のセレブ的な空間と違いメルヘンに染まりそうな部屋だった。
キャラクターモノのぬいぐるみやクッションが並んでいる。
なんとも女の子っぽい可愛らしい部屋だった。
「適当に座ってて、今紅茶入れてくるから」
そう言われたもののどこに座ればいいのか解らなかったので、僕は部屋の真ん中に正座してみた。
家の人が誰も居ない、女の子の部屋で、ニ人きり──。
妄想で塗り固められたアレやコレがぐるりと頭の中で回りだす。
「ハウツー本には緊張しない事って書いてあっ……」
気が付いたら妄想中にエリカは戻ってきていて、不思議そうに顔を覗き込まれていた。
「わーっ!」
「え?なにっ!?」
思わず声が出て、エリカも驚いていた。
それが落ち着いてからエリカが淹れてくれた良く名前は解らないけど、きっと高いであろう紅茶を飲んだ。
エリカは「あ、そうだ電話しなくちゃ」と言うと続けて「ちょっと電話してくるね」とだけ告げてしばらく部屋から出た。
エリカが電話から戻ると「さっき何を考えてたの?」だとか、「実は紅茶はリプトンなんだよね。」だとか他愛もない会話をした。
そのうち妄想めいた緊張は無くなっていった。
「それでね、相談なんだけど」
「はい、なんでございましょう?」
「あはは…もう、いいよ。普通に聞いて」
「あ、うん」
「ねぇ、みく子って知ってるよね?」
「うん。知ってるよ」
「今日さ、何があったのか教えて欲しいんだ」
「え?今日?」
「みく子、誰かと一緒じゃなかった?」
「そうそう、チョイブ…じゃないや、男の人と一緒に講義抜けちゃって…」
「しのめんくんもその後すぐに講義抜けてるでしょ?」
「ぇ…なんで知ってるの?」
「私の他の友達が見てたんだよー。しのめんくんがニ人を追いかけてたって」
「…そうなんだ。」
「でさ、みく子と一緒に講義抜けた男ってロシュじゃない?」
「ロシュ?」
「んーとね、この人」
エリカが差し出した携帯電話の画面に、みく子と一緒に講義を抜けたチョイブ男がエリカと一緒に写っていた。
「この人がロシュ。私の彼氏なんだ」
僕は大学ノートを素早く取り出すと
「チョイブ=ロシュ=エリカ様の彼氏=みく子と親密=許せん」
と書いた。