スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

二日目:蜜編 過去 09話

中身が半分ほど減ったカンパリの瓶が飛んで来た。壁にぶつかり鈍い音を立てると、床に打ち付けられて派手な音を鳴らしながら割れ、散乱したガラスの隙間を縫うように真赤な液体が流れ出した。「何してんだ! それ売り物だぞ!」「うるさい馬鹿!」それが僕とエリかの最初で最後の大喧嘩の幕開けで、最初からエリカは泣いていたはずだけれど、今の僕にその顔を思い出す事は出来ない。そもそも何故、泣いていたのか。フロアに出ていた店長が血相を変えながら、事務所に入るや否や「何やってんだ!」と叫んだ。それから割れた瓶の破片を見て、小声で「危ねっ」と言った。カンパリに浸された床は、店長の口紅と同じくらい真赤だった。

【M線上のアリア】 過去/09

休憩中にエリカの恋の話を聞くのは日課で、その日も同じような話を聞かされていたはずだ。恋多き女のくせに、最近二年間は同じ男の名前しか聞かない。名前を聞く限りは外人のようだが、どうやら帰国子女らしい。アメリカ人の血が混ざる日本人離れしたエリカと気が合うのだろうが、正直あまり興味はない。アメリカ人の血が混ざろうがエリカはエリカだし、エリカと付き合う男は付き合う男で、それ以上の深い意味など無い。エリカは彼氏との恋愛話を、絵本でも読み聞かせるかのように愉しげに話した。こちらとしては特に読んで欲しくもない絵本なのだが。それから「蜜もそろそろ彼女でも作ったら?」と、僕をからかうように言った。

からかうように、と言うよりも、優位な場所から僕を見下すように言った、と表現する方が、恐らくは正しい。少なくとも瞬間、僕はそのように受け取った。僕はみく子を思い浮かべた。だけれど言わなかった。僕とみく子が付き合い始めて、同じく二年近くが経とうとして居たけれど、僕はそれをエリカに伝えていなかった。今、この瞬間もだ。僕は厭だった。僕の恋愛を語る事で、僕とエリカの関係が、決定的に幼馴染になる事を認めてしまうのが厭だった。認めようとも認めなくとも、実際に今の関係はそうなのだけれど、それでも僕は能動的に、その事実を認めてしまうのが厭だった。今の関係はエリカが勝手に作った関係だと、僕は信じていた。

「ま、だけど蜜は不幸だよねぇ」
「何で?」
「一番近くにエリカみたいな美人がいちゃ、彼女も出来ないよねぇ」
「ははっ」と笑いながら、僕は何とも言えぬ不快感を抱いた。自信満々のエリカは挫折を知らずに育った。欲しくても手に入らなかったものなんて無いんじゃないだろうか。そしてもしかするとエリカは、この付かず離れずの関係の中で、僕の事さえ自分の所有物のように考えているのではないだろうか。それが僕の不快感の原因だと知るのは、難しい事では無かった。

「いるよ、好きな人」
「は?」
「恋人がいる」
「何それ」とエリカは言い、僕の目を見たまま固まった。B級ホラー映画のラスト・シーンでも眺めているような目だった。それから同じ目のままで「何時から?」と訊ねた。「二年前から」僕が答える間も無く、エリカは立ち上がった。そこで場面は冒頭に戻る。

「信じらんない!」エリカは事務所の隅に置いてある酒棚からカンパリの瓶を手に取ると「何で黙ってたの?」と言った。「別に教える義務はない」僕の台詞が予想以上の逆効果を生み、エリカの顔は真っ赤に染まった。……と思う。よく思い出せない。「信じらんない!」二度目の同じ台詞は、だけれど先程よりも語気が強く、本当に信じられないのだな、と思わせるに充分だった。エリカが怒る顔を見て、瞬間、不謹慎だけれど、僕はこう思っていた。

ああ、僕はエリカの、その顔が見たかったんだ。
僕に嫉妬する顔を。僕と、僕が好きな誰かに嫉妬する顔を。自分の思い通りにならない事実に打ち震える顔を。挫折する顔を。それはエリカと出逢って数年間、僕が何度もエリカに見せた顔だった。だけれどエリカは知らん顔で、自由に振る舞ってきた。一度で良い。たった一度で良いから、そんなエリカの顔を、僕は見たかったんだ。怒るエリカを見て、僕は笑った。

「何が可笑しいの!?」
「別に」
「何で黙ってたの!?」
「何だよ、嫉妬?」

からかうように言った瞬間、中身が半分ほど減ったカンパリの瓶が飛んで来た。壁にぶつかり鈍い音を立てると、床に打ち付けられて派手な音を鳴らしながら割れ、散乱したガラスの隙間を縫うように真赤な液体が流れ出した。「何してんだ! それ売り物だぞ!」「うるさい馬鹿!」

「蜜はエリカの【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】なのに!」
「……は? 何言ってんだ?」
「蜜はエリカの【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】なのに、何で!?」
「……何言ってんだよ」
「何で勝手に好きな人、いんの!? 何でエリカから離れんの!?
蜜は【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】なんだから、そんなのって無いよ!
蜜が勝手に好きな人を作るなんてズルイよ、そんなの絶対に駄目なんだよ!」
「……どういう意味だよ、それ」

今から考えると随分と核心的な台詞をエリカは言った。僕とエリカの関係を揶揄のしたような台詞ではある。直接的な驚きは少なかった。だけれど衝撃的だった。数秒間、動けなかった。エリカは泣いていた? 多分。何も思い出せないが。見事に欠落したように、思い出せない。

フロアに出ていた店長が血相を変えながら、事務所に入るや否や「何やってんだ!」と叫んだ。僕は立ち上がると「帰ります」とだけ告げた。店長は背中越しに「は? ちょっと待て! 何言ってんだ!?」と叫んでいたけれど、僕は振り返らなかった。最悪な辞め方だけれど、僕はそれで居酒屋のアルバイトを辞めた。辞めてしまった。これ以上、エリカと一緒にいたくなかったから。僕がエリカの【----"devil ate it" 404 NOT FOUND----】? 冗談じゃない。

その日のエリカの顔を、やっぱり僕は思い出す事が出来ない。

書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
━┛━┛━┛━┛━┛━┛━┛
★ブログじゃ読めないおまけページが盛り沢山!M線上のアリア A巻 購入はコチラから!★
にほんブログ村 小説ブログへ
↑ランキング参加中!感想の代わりにお願いします。

≪二日目:蜜編 過去 08話 | TOP | 二日目:志津編 05話≫


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。