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一日目:蜜編 現在 04話

正直言って、もう逃げ出したい。
みく子が何を言ってるのかサッパリ解らないし、さっきからずっと胃が痛い。
世界が僕の知らないところで、勝手に動いている感覚だ。世界は僕の知らないところで勝手に冷蔵庫を開け、麦茶を飲み、玉子を二つ取り出してスクランブル・エッグを作っている。僕はと言えば傍観者にさえなれず、主人公にもなれず、成り行きを眺めながら虎視眈々と、生き延びる手段だけ見極めている。DNAを変質させながら、数多の生物が進化してきたように。


【M線上のアリア】 現在/04


一年前に『呑処 お松』のバイトを辞めてから、僕がほとんど引き篭もり同然に暮らしてきた事と同じように、世界が僕とみく子の二人だけで語られるような単純な構造なら良かったのに、と思った。ところが恐らく、きっと世界は僕の思い通りにはいかず、時計の秒針があと何回転かすれば、みく子はこの部屋を出ていくだろう。複雑に絡み合う世界に足を踏み込むだろう。この秒針と同じように、音も立てずに。

ああ、僕が今、此処でみく子を手放さない限り、みく子はこの部屋から出られない。複雑な世界に足を踏み込む必要も無く、僕が世界に取り残される事も無い。なのに、みく子は今、この部屋を出ようとしている。何の為に? 大学の友達と、ナントカ教授に会いに行く為に。変わってしまう事を恐れる、みく子自身の為に。僕には彼女を止める術など無く、言葉さえも無く、秒針だけが、ああ、もう、また一回転した。

「……欠落したアルビノ?」

みく子の胸に抱かれたまま、最初に出てきた台詞がコレなんて、あまりにも芸が無かった。だけれど真っ当な疑問であるし、このまま投げ出しておく訳にもいかなかった。みく子の胸に埋めたままの顔を上方にずらすと、僕はゆっくり彼女を見上げた。彼女は窓の外を見ていた。

「そうよ、アルビノ、欠落してしまった」

英文を直訳したような日本語で、彼女は言った。
僕は知識を掘り返した。遺伝情報が欠落し、先天的にメラニンが欠乏している遺伝子疾患。アルビノ。ところが彼女の言葉は「それさえも欠落している」という事実を表していた。欠落したアルビノ。それは既に、生物のそれでは無い。ワイドショーから呑気な笑い声が消え、イカガワシイ現役教師の性犯罪のニュースが流れている。僕は抱かれたままの体勢から、床の上に転がっているリモコンに手を伸ばし、指先だけでテレ・ビジョンの電源を消した。無音。

「……みく子、一体どういう事なのか、詳しく聞か、」
「あのね!もしもね、」

僕が意を決して発した言葉に被せるように、みく子が声を出した。僕の言葉を、わざと遮る為に発したような声だった。それとも形にならない言葉が、僕の発した声に押されて、思わず零れてしまったような性急な声だった。みく子が小さく震えているのが、よく解った。

「もしもね、もしも、もしもね……」
「……何?」
「もしもね、蜜クン、もしもアタシが人間じゃなかったら、どうする?」

冗談、では無い口調。それから今までの会話の流れにそぐわない発言。思い詰めたまま逃げ場の無くなった、彼女の表情。馬鹿にでも解る。それはそのまま、それを表している。何を表しているかは言いたくない。事実を受け入れるには、まだ早い。だって次の発言、僕はなんと言えば良い? 笑いながら「またまたぁ」とでも言えば良い?そんな訳は無い。

「みく子はみく子だ」

面白くない台詞が出てきてしまった。
みく子、僕は過去に戻って欲しい訳じゃないんだ。
みく子、僕は変わらないで欲しいって願う。
大切なのは過去なんかじゃない。
維持する今なんだ。

「アタシね、蜜クン、何者でも無いのよ」
「みく子はみく子だ」
「アタシね、蜜クン、失敗したバイオロイドなの」

嗚呼、全ては無音だ。
だけれど、みく子の心音だけは聞こえる。
彼女の中を、血管が通り抜け、血液が走り抜けている。
今だって温かな血が流れている、はずだ。

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