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二日目:蜜編 現在 17話

エリカが話した事を、以下に記憶する。
エリカとみく子は同じ大学だが、そもそも互いに深い面識は無かった。突然みく子の肌が病的に白くなった事、アバンギャルドな髪型に変えた事は、ここ数日、学生達の間でも話題になっていたらしい。エリカの恋人(名前は確か"ロシュ"だった)と、みく子が講義を抜けて、一緒に何処かへ消えたらしい。それは今日の昼間の出来事だ。みく子は昨夜、僕の家を出た後、恐らく何処かに泊まり、そのまま大学に行ったらしい。何処に泊まったかは深い問題ではない。重要なのは「大学に顔を出した」という部分だ。何らかの意図があったはずだ。

「それにしても、何でお前の恋人と、みく子が?」
「……それが解んない」

エリカは「正にそれが悩みの種」と言わんばかりに深く溜息を吐いた。昨夜のみく子の告白が、実はエリカの恋人と浮気している事を隠す為の、単なる壮大な嘘だったとしたら、随分と気がラクだな、と思った。だけれど多分、その線は薄い。みく子の肌は実際に病的な速度で白くなったし、昨夜のみく子の告白からは壮絶な覚悟を感じた。そもそも、みく子が僕にそんな馬鹿げた嘘を吐くはずが無い。そう思わなければ、僕は何も出来ない。みく子がエリカの恋人を誘ったのには、必ず何らかの意図がある。みく子は何か言わなかったか?

(大学の友達に会ったんだけど、すごく心配してくれたの)

(うん)

(謝らなくちゃダメね、心配させちゃった事)

(へぇ、男?)

(ん? さぁて、どうかしら)

断片的な記憶の洞窟を探る。
そこでは無い。恐らく、その直後、みく子は何と言った?
それはあまりにも何気ない台詞に忍ばせてしまった病的なまでの覚悟に近く、例えばレンタル・ビデオを借りたい人間が「ビデオを借りに行こうと思うの」と言うような、能天気な発言とは程遠く、かと言って自殺志願者が「死のうと思うの」なんて言い出すような、絶望的で刹那的なヒロイズムすらも、漂ってはいなかった。

確定された未来。
もしくは、確定された未来に対する反抗。
みく子は卵白のように透き通った顔を近付けて、僕の唇を舐めた。
僕の唇を舐めた後で、その舌先をペロリと味わい、確かこんな事を言ったんだ。

(アタシ、その人と一緒に、ノートン教授に会いに行こうと思うの)

「……エリカ、お前の恋人、アメリカに留学してたよな。何やってる人?」


【M線上のアリア】 現在/17


「え?」
エリカは思考の中から不意に背中を押されたような表情をして、顔を上げる。恐らく僕が悩んでいるのと同じくらい、エリカも恋人の行方を気にしている。皮肉なモンだ。幼馴染のそれぞれの恋人が、大学の講義中に一緒に手を取り合って、何処かへ行ったのだとしたら。不安にならない方がおかしい。浮気をしているのではないか? という短絡思考に身を委ねる事も容易いだろう。だけれど現実は、もう少しだけ複雑なはずだ。

「みく子は誰かと一緒に、爺さんに会いに行くと言ってたんだ」
「……爺さん?」
「お前の爺さんだよ、あの変な研究ばっかりやってる、爺さん」
「ちょっと! お爺ちゃんの事、悪く言わないで」
「言ってない、変な研究ばっかりやってるのは事実だから。いや、そんな事はどうでもいい。重要なのは、みく子が"誰かと一緒に会いに行く"と言った部分だよ。お前の爺さん、忙しいし、有名人だし、誰かのコネでも無いと、中々会えないだろ」

おまけに変わり者だし、という部分は口に出さず、僕は言った。それから、こう付け加える。「お前の恋人は、爺さんの教え子か何かか?」予想通り、エリカは頷く。
確かにエリカが毎日のように、居酒屋の休憩室で恋人の話をしていた時に、そんな話題も出ていたような気がする。爺さん繋がりで知り合ったとか何とか言っていた気がするが、僕は興味の無い振りをして、そのほとんどを聞き流していた。

(そもそも何処で、その帰国子女を好きになったの?)

(ああ、元々、お爺ちゃんの教え子なの)

(ああ、お前の爺ちゃんか……)

……確かに言っていたな、と思う。確かに言っていたけれど、あまり聞きたくなかった。実際に聞き流していた。僕は怖かったし、認めたくなかった。エリカが僕の引力を振り切って、何処かへ行ってしまう事を認めたくなかった。僕らは互いに保険をかけて、自由な恋愛を謳歌する真似事をしようとしていた。恐らく、少なくとも、あの頃は。そして現在。

「爺さんに会いに行く気だよ、みく子は」
「……ロシュと一緒に?」
「そう、お前の恋人と一緒に、爺さんに会いに行くはずだ」

それが今日の昼間の出来事なら、会いに行くのは明日か、明後日か。
どちらにせよ、そう遠くない内に。失敗したバイオロイド。みく子。爺さんの研究。子供の頃に見た、変な研究施設。……変な研究施設? 何処で見た。解らない。とにかく変な研究施設。なるほど、何をしようとしているのかは、何となく解る。だが、それは正しい事か? 解らない。予感だけが緩慢に、確信に変化していくのを感じる。

「本当に消えるつもりなのかもしれないな……」
「どういう意味……?」
「いや……」

みく子は変化する自分を恐れていた。ならば、望む事は何だ?
止めてしまう事だ。自分自身を。
変化を拒否し、停止を望むなら、みく子の行く先は見えている気がした。
爺さんの研究室なんかじゃなくて、それは……。

「ねぇ、浮気じゃない? ロシュとみく子、浮気してる訳じゃない?」
エリカは不安げな表情で、吐き出すように訊ねた。
見当違いな心配に見えるが、事情を知らなければ当然の不安だ。
「当たり前だ」と言いかけて、だけれど一瞬、そこで僕は言葉を止めてしまった。

(ノートン教授にね、会うの……どんな手段を使ってもよ。
 誰かを騙し、欺き、愛想笑いを垂れ流すとしてもよ……絶対に会うの)

抱き合うくらいはしているかもしれないな、と思い、そこで僕は考えるのを止めた。
代わりにエリカに向かって「馬鹿、そんな訳ないだろ」と言って、笑った。

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