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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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二日目:蜜編 現在 18話

みく子は誰かに抱かれるか?
例えば声がカワイイ女の子だとか、歌が上手な女の子に会った時に、僕はこう考える。
「この子が喘いだら、一体どんな声になるのかな?」
僕はそんな下品な事ばかり考える。みく子を初めて抱いた日に、その解答を得た時の感動といったら、ガガーリンが地球の青さに気付いた瞬間に匹敵するのではないかと思う。

みく子の肌は白く、そして冷たく、それは雨の日で、部屋が寒かったせいもあるのだけれど、もしかしたら、僕らが温め合う為に、みく子はわざと冷たかったんじゃないのかな? なんて、僕は思っている。体温。人間。何ら変わらぬ生命。性交。バイオロイド。失敗した? 何が?

もしも今頃、エリカの恋人と、みく子が抱き合っているのだとしたら、どうする?
些細な問題だ。笑ってしまうほどの。何かを覚悟する為の手段なのだとしたら。
そもそも、そんな仮定を思い浮かべる事自体、やはり僕は下品だ。みく子は浮気はしない。

(浮気されたの、酷いと思わない?
 それを隠してるつもりだったのか知らないけどね、知ってたからね。
 相手の女の子はどんな子なのか、アタシ全然知らないけどね、まったく呆れちゃう!)

相手の女の子がどんな子なのか、僕も全然知らないが、みく子が浮気自体を嫌っていた事は、よく解る。浮気? 否、みく子が嫌っていたのは、恋愛沙汰の浮気云々ではなくて、もっと複雑で、もっと単純な、たった一つの感情。一秒後にも壊れてしまうような、悲しすぎる感情。

(変わってしまうモノなんて、全部嘘)


【M線上のアリア】 現在/18


「馬鹿、だから大丈夫だって」
エリカが少女漫画のように大きな瞳に涙を浮かべたので、僕は笑った。笑いながらテーブルの上の高価なティー・カップを手に取り、安価なリプトン紅茶を口に運ぶと、予想通りエリカが泣き出したので爆笑した。「何で笑うのよぉ」と鼻声で泣きながらエリカは訴えたが、この場合のエリカは不安に耐え切れずに泣いているというよりも、僕の前で泣く事によって安心を得ようとしているだけなので、まったく心配ない。

本当に追い詰められた重要な局面では、エリカは一人では決して泣かない。信頼出来ない相手の前でも決して泣かない。心を許した誰かが自分の傍にいる時に、エリカは初めて泣ける。泣いているのはエリカなりの、安心の合図なのだ。

「お前、信じてないのかよ? 恋人、誰だっけ、ロッシェ?」
「ロシュ」
「ロシュくんの事、ほんの少しでも信じてないのかよ、お前」
「信じてるから不安なの!」

禅問答みたいだな。
僕はリラクゼーション・チェアに背中を預けると、息を吐きながら窓の外を見た。月。それから僕らの町の全てが見渡せるような夜景。夜景と呼べるほど大層なモンではないかもしれないけれど、此処からは僕の団地も、エリカの豪邸も、商店街も、大学も、全てが見渡せるような気がする。僕は勢い良くリラクゼーション・チェアを立ち上がると、窓辺に立った。

「相変わらず、この部屋スゴイな、夜景」
「うるさい」エリカは泣いているくせに、一応反応はする。
「此処からだとさ、全てが手に入れられる気分になるんじゃないか?」
「うるさい」
「今日からこの町は全てお前のものだ、わはははは」

僕は首だけで振り返り、わざとらしく両手を大きく広げると、息を吸った。
改めて少年漫画的に「どうだエリカよ、今日からこの町は全てお前のものだ!」と言った。

「馬鹿じゃないの」
「知ってるよ、大学、落ちたし」
「……本当に馬鹿なんじゃないの、あのね、この町の全てがエリカのモノになったとしてもね、たった一個の、本当に欲しいモノが手に入らないんだったら、やっぱり悲しい事なんだよ」
「へぇ、それは何?」
「ロシュ」

「はっは!」と大袈裟に笑って見せた。少年漫画的な台詞を、ここまで少女漫画的な台詞で返されると、笑いしか出て来ないものだな。立派な解答だ。「浮気の心配なんてすんなよ」
「心配はするよ」
「お前、どうしてロッシェくんの事、好きになったの?」
「ロシュ」
「ロシュくんが帰国子女でカッコイイから、もう何年も付き合ってるの?」
「違うよ」

エリカは何かを探すように辺りをキョロキョロ見回すと、ティッシュを発見し、手をパタパタと小動物のように動かすと、それを一枚抜き取り、正しく小動物が木の実でも食べるかのように、それで顔を隠すと、豪快に鼻をかんだ。鼻かむのかよ。あんまり可愛くないな。

「ロシュは愛で溢れてるの」鼻を真赤にさせながら、エリカが言う。
「はい?」
「ロシュは誰かを幸せにしたり、笑わせたりするのが大好きな人なの。エリカはすぐに誰かの愛を求めちゃうからさ。駄目なのよね。だけどロシュの愛は枯れないの。いっぱい注いでくれるの。優しいし、頭いいし、カッコイイのも好きだけど、自分より誰かを幸せにしたいと思える、その強さが、私は好きなの」
「……そして今、お前自身は鼻水で溢れていると」

「うるさいな!」エリカは鼻をかんだティッシュを僕に投げ付けながら叫んだ。お腹一杯になるくらいノロケられたんだから、これくらいの軽口は許して欲しい。エリカの恋人。よく知らないし、別に会いたくもないけれど、それがエリカに相応しい男ならば、やはり一緒に喜ばなければならないのかな、と僕は思った。一緒に喜ぶべきなのだ、と思った。月が見える。

「ま、他の女の子にも優しすぎるのはどうかと思うけどね」

付け足すようにエリカは言って、また鼻をかんだ。
月が見える。それは届かない。しかし毎夜、それは現れ、沈み、また現れる。
月を手に入れられぬ事を嘆く必要はあるか? 恐らくきっと、生まれてから死ぬまで、それはそこに浮かび続けているのに? 僕が守ろうとしていたものは何だ? その感情は一体何だ?

「……初恋だよ」

「へ?」とエリカは首を傾げる。
「いや、何でもない」僕は笑いながら、リラクゼーション・チェアに座り直す。
守り続けようとしていたもの。変化を拒もうとしていたもの。初めて好きになった誰か。それなのに別の誰かを好きになってしまう自分を、心の何処かで、僕はずっと否定したかった。
「じゃあ、あの感情は嘘だったのか?」と。

エリカが好きだった。それが幼い感情だとしても、僕はそうだった。
初恋? 初恋。小学校二年生の初恋。初恋とも呼べないかもしれないような、淡すぎる初恋。
生意気な女。すぐに誰かを好きになるお嬢様。何時も誰かに愛されなくては生きていられない弱虫。泣虫。褒められて伸びる子だと、自分で言ってしまうような自信家。エリカ。

月は地球の引力を振り切るか?
知らない。地球に暮らしながら、わざわざそんな心配をするなんて馬鹿だ。
史上初の人工衛星『スプートニク』に乗せられた、一匹のライカ犬の名前を知っているか? 僕は知らない。残念だ。もし名前を知っていたら、その名を呼んで星空に呼びかけるのにな。僕らの進化は、引力を振り切った、その先にある?
否、引力の有無に関わらず、僕らが過ごした現実の、そのずっと先にある。

「蜜は、どうしてみく子の事、好きになったの?」

エリカが呑気な顔をして、僕に訊ねた。
僕は、笑った。
言葉にすると随分と、安っぽい台詞になってしまいそうだったから。

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