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二日目:蜜編 現在 19話

「みく子は何で、お爺ちゃんに会いたいんだろう?」
壁時計の針が十二時を過ぎた頃に、エリカは不意に言った。眠そうな表情。大して疑問に感じている訳でもないが、何となく思い付いたので言ってみましたという表情。事情を知らないエリカにしてみれば、どうして自分の彼氏を連れてまで、みく子が爺さんに会いに行く必要があるのかなんて解らないだろう。「課題に追われてるのかな?」非常に大学生らしい正しい予想だ。

実際は違う。と思う。
僕だって本当の理由を知っている訳ではない。みく子が爺さんに会う事によって何が起こるのかは解らないが、みく子は変わろうとしているのだと、最初に僕は思った。爺さんが何の研究をしているのか詳しくは知らないが、みく子の体にとって、何らかの良い影響がある研究のはずなんだ。だから、みく子は爺さんに会いたがった。そう思った。だけれど今、僕は少し別の不安を抱えている。みく子は、もしかしたら消えようとしているのではないか?


【M線上のアリア】 現在/19


「課題に追われている……そうかもね」
適当に返事をして訳ではない。当たらずとも遠からずな予想のような気がした。課題を抱えたまま大人になってしまった彼女の身(それは"失敗したバイオロイド"という語列に含まれるのだろうか)に、何らかの期限が迫って、それを彼女は解決しようとしている。変えるのか。消えるのか。解らない。とにかく決着を付けようとしている。「爺さんに会うとしたら何時だろう?」

「そうね、早くても明後日になると思う。
明日はお爺ちゃん、昼間は誰とも会わずに大学の研究室にこもってるはずだし。そういう時に研究室に勝手に入ったら、エリカでさえ怒られるんだから。それに普通の人には入れないし。それから夜はパーティーがあるからね。エリカも行くけど。会えるのは早くても明後日だよ」
「明後日ね」

みく子が爺さんに会う前に、何とか先に爺さんと連絡が取れないだろうか。エリカにはみく子の事情を話してない手前、僕が爺さんに会いたがるのは不自然だ。非常に不自然だ。大体、僕は昔から爺さんが苦手だ。変わり者で、気難しくて、人を舐めるように見る視線が苦手だ。だから不自然だ。不自然なのだ。不自然なのだが、背に腹は変えられぬ。

「ああ、僕も久々に爺さんに会いたいなぁ」
「あら珍しい、どしたの急に?」
「いや、別に会えなくてもいいや、何か爺さんと携帯で話したいなぁ」
「お爺ちゃん、携帯持ってないよ」
「嘘ぉ……!?」

何かの研究で世界的な権威でご多忙極まる爺さんが、携帯を持ってない? 思わずエリカを二度見してしまった。持とうよ。持とうぜ。爺さん携帯持ちましょうよ。時代は二十一世紀ですよ。

「お爺ちゃん、何時もパソコンばっかりいじってるじゃん。だからネットがあれば充分だって。それにお爺ちゃん、ほら、人と話すの嫌いだしさ、電話も嫌いなんだよ」
「ああ……」

ネットで事足りるとは言え、まさか爺さんがHotmailを使っているとも思えないし、チャットで楽しくお喋りしている姿も想像出来ない。電話が嫌いならskypeを使う事もないだろうし、まさか個人ホームページを持っていたらどうしよう。いや無いとは言えない。一応、有名人だし。

「お前の爺さん、まさかホームページに手を出したりとかは……」
「何言ってんの?」
「いや、うん、爺さんのメールアドレスとか知らないの?」
「知らないよ、お爺ちゃんに急用がある時なんて、そんなに無いし」
「あ、そう」

残念だ。エリカがもっとお爺ちゃん子なら良かったのに。自分のお爺ちゃんが今、何処で何をしているのか、道に迷ってはいないか、泡を吹いて倒れてはいないか、一分一秒気になってしまうような、可愛らしい孫なら良かったのに。今時の若い娘は駄目だ。

「エリカのメアドなら教えてあげるよ? 知りたい?」
「……いや知ってるし」
「あれから何回か変わったんだよ! あ、番号も変わっちゃった!」

ああ、一年振りに会った訳だから、有り得る話ではあるな。だけど今、僕が知りたいのは爺さんの連絡先であって、お前の連絡先ではないのだが、「あ、繋がった!」
「え?」
「蜜、まだ番号変えて無かったんだねぇ!」
「いや、そんな感動的に言われても……だって携帯変えて無いもん」
「すごいね! 今時の若者じゃないみたい!」
「褒めてんのか、それ……」

ポケットの中で携帯が揺れている。同時に着信音。「スーパーマリオの無敵状態のテーマ」。

「変な着信音」
「みく子の趣味だ……」
「へぇ! 変わってんだね、みく子!」
「いや、そんな事より、爺さんの連絡先をだな……」
「うわ! 蜜の携帯、古っ! 直接メアド教えなきゃ駄目じゃん!」

爺さんと連絡を取る方法を知りたいだけなのに、先程から何か散々言われている気がする。恐るべし、エリカの間。エリカは楽しげにメモ帳とカラフルなペンを取り出すと、何かを書き始めた。どうせメアドだろうけど。爺さんと連絡を取るには、やはり直接会うしかないのか。一体どうやって? 大学の研究室に行くのは難しい気がする。……パーティー?

「明日の夜、パーティー行くんだっけ?」
「うん、行くよ」
「爺さんと一緒に?」
「え、何? そんなにお爺ちゃんに会いたいの?」
「会いたい、会いたい、血の涙が出るくらい、お前の爺さんに会いたい」
「何それ。でも無理ね。明日は招待制のパーティーだもん。蜜、招待状持ってないじゃん」

軽口を叩くように言うと、エリカは小さな紙を摘まみ上げ、ひらひらと舞わせた。噂の招待状。僕は奪うようにそれを手に取ると、その内容を確認する。斉藤氏。誰? この界隈では有名な金持ちか何かだろうか。庶民は聞いた事も無い名前だ。
特別ゲスト:ジェームス・ノートン教授、エリカ・ノートン嬢。

「……特別ゲストぉ!?」
「そうよ、特別ゲスト、お嬢様ですから」
「フン、呼ばれても行くもんか、そんなパーティー」
「何よその言い方! ちょっともう返してよ! 蜜のバカ! バ?カ!」
「二回目のバカが長い!」

パーティー会場に忍び込むなんて手は無理だな。エリカも一緒に来てるんじゃ尚更。やはり明日中に直接、大学の研究室に会いに行くしか手段が無い気がする。みく子より先に爺さんに会って、僕は何がしたい? みく子が何をする為に爺さんに会いに来るのか、僕は知りたい。みく子は変わりたいのか。消えたいのか。

「そろそろ帰ろうかな」

僕は立ち上がった。
結局、何の為にエリカの家に来たのか、僕には意味が解っていなかった。だけれど悪魔……ヴィンセントの意図は、きっと何処かに隠れていて、僕に出来る事は、目の前に現れる出来事を、一個ずつ片付けていく事しかないんだと思う。それしか選べる道は無いんだと思う。

「え、もう帰るの?」
「帰るよ、もうすぐ一時になるんだぜ?」
「ちぇ、つまんないの、泊まっていけば良いのに」
「あのね……」言いかけて、それはエリカらしい発言だと思い、僕は言うのを止めた。
その代わり、別の言葉を繋げた。

「もしも恋人……ロッシェくんが謝ってきたら、すぐに許してあげなよ。
それはエリカにとって、きっと大切な人なんだ。何より欲しくてたまらない人なんだろ?
沢山、甘えると良いと思うよ。お前は昔から、自分の好きな人だけには、甘えん坊だからな」

「うるっさいなぁ……」エリカは下を向いたまま立ち上がると、生意気な口調で言った。
玄関で靴を履こうとすると、エリカが後から付いてくる。
「あ、玄関まででいいよ?」
「は!? 蜜なんて見送んないよ! 別に!」
「あ、そう」
「それにロッシェじゃなくて、ロシュ! アンタ絶対、わざと間違えてるでしょ!」
「あ、ばれた?」

僕は笑いながら靴の踵を直すと、扉を開ける。

「あ、ちょっと待って!」
「……何?」

エリカは手に持っていたメモ用紙に唇を付けると、
勢い良く振りかぶり、それを僕の唇に向かって投げ付けた。

「……痛、ちょっと、何だよ」
「幼馴染のキスよ! 早く帰れば! バイバイ!」
「ははっ」

床に落ちたメモ用紙を拾うと、エリカを目で追った。
怒ってますよ、という仕草で腰に手を当て歩いていく、エリカの後姿が見える。
それを見て、やっぱり僕は笑った。
扉を閉めた。

エレベーターに向かうと、先程と同じ黒人男性が立っていた。
実際、誰も似たような容姿なので、同一人物かどうかは解らないが。
エレベーターの到着を待っている数秒間に、僕は彼に、こう話しかけた。

「あれが生粋のツンデレという生き物だよ……なぁ?」

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