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二日目:蜜編 現在 20話

エレベーターが一階に到着すると、エントランスから外の風景が見えた。
雨。
一時間前は止んでいたのに、豪雨と呼ぶべき豪雨。
台風前夜。いや、既に台風は上陸しているのかもしれない。雷鳴。
「本格的に降ってるじゃん……」
誰に言う訳でも無く呟くと、横から傘を差し出された。女性従業員の手。
「どうぞ、お使いください」

「あ、どうもありがとう」受け取る瞬間、彼女の手を見る。男性的な手。いくら警備員を兼ねているとは言え、女性の手がこんなに骨格的になっていると、少し心配してしまう。変質した手。二度閃光。遅れて雷鳴。両手で傘を持ちながら入口まで歩く。外を歩きたくない。

タクシーで帰るか。財布を確認するが、金が入って無い。一年前に居酒屋を辞めたというのは本当だったのか、と妙な部分で納得してしまう。一年間の記憶があるのに、一年間まるで仕事をしていなかった記憶が無いのは、変な感覚だ。どの部分の記憶が抜けているせいなのかも解らない。その間、僕は何をしてたんだ? 三度閃光。少し遅れて雷鳴。

腹が減った。考えてみるに起きてから何も食べてない。
エリカに何か食わせてもらえば良かった。今更、何か食わせてくれと戻る訳にもいかず、タクシーに乗る金も無く、僕は自動ドアの扉を開けた。圧倒的な水音。轟音。野良猫。「野良猫」思わず口を吐いた。野良猫達はどうしているだろう? みく子が餌を与えていた野良猫達。

みく子が家を出て、丸一日。その前から唄っていなかったのだとしたら、何時頃から餌を与えられていない? 否、野良猫なのだから、餌を期待されても困るが。それに加えて台風。僕は傘を開くと走り出した。金は無い。餌は買えないぞ。今晩の僕の飯はどうする? 解らない。

四度閃光。

遅れて、雷鳴。


【M線上のアリア】 現在/20


家に帰れば冷蔵庫の中に、少しは何か入っているだろう。あとはカップラーメンの一個や二個くらい。貯金通帳、持っていったのかな、みく子。何時頃、帰って来るのかな。走る。何考えてんだ。少し吐き気がした。みく子は帰って来ない。足冷たいな。傘が役に立ってない。

野良猫。生きてるかな。たった一日くらいで死んでる訳がない。そんなの解らない。
呼吸。運動不足。酸素が足りない。休め。豪雨。何処に向かってるんだ、今。解らない。
血液供給。全身。欠乏。苦しい。頭が朦朧とする。何処に行ったんだ、みく子?

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

何だこれ。僕の呼吸音。必死になって走っちゃって、空気を求めてる。情けない。醜い。
無様だ。無様な醜態だ。何の為にもならない事をしているならば、僕は驚くほど愚かだ。
それでも走れ。走ってくれ、僕の足よ。……何処へ? 野良猫の元へだよ。解ってるだろ。
何をする為に? 見守る為に。餌も与えられないのに? 餌も与えられないのに。悪いか?

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ!」

台風は明日上陸予定なんて言ったのは誰だ? 明日……日付が変わって今日か。
古新聞でも古雑誌でも捨ててないかな。野良猫が今夜の雨を凌げれば、何でも良い。
そうだ、傘があるか。
これは同情か? 同情かもしれないが、それの何が悪い? 心配だ。僕は気になるんだ。
台風で、世界がどうなってしまうのか、ではなくて、僕達がどうなってしまうのか、をだよ。
とても苦しいんだ。胸が張り裂けそうだ。酸素が足りない。休め。走れ。休むなよ。走れよ!

「……はぁ! はぁ! はぁ! はぁ! ……?」

ポケットの中で何かが揺れている。携帯。豪雨に紛れて着信音。聴こえない。
エリカか? 何か忘れ物でもしたか? 携帯を取り出す。ディスプレイが濡れて読めない。
親指。通話ボタン。「もしもし?」

「……もしもし」

みく子。
六弦を弾くような声。
豪雨の隙間からか細く聞こえる声は、みく子のそれだった。
心臓が一瞬、恐らく確実に止まった後で波打って、その勢いで僕は言葉を発する。

「……みく子?」
「うん……」
「……本当に、みく子か?」
「うん……蜜クン、元気?」
「……元気も何も、一日会ってないだけじゃないか」

何となく、僕は笑った。
こんな時に笑ってしまう僕を、僕は後悔した。
みく子の声は細く、細く、今にも雨に流されてしまいそうだった。

「そう……良か……のね……めんね……」
「何? ごめん、よく聞こえない」
「ちゃんと……食べてね」
「ああ、ご飯?」

台風の影響か、電波か、轟音か、みく子の声は聞き取り辛く、それはもしかしたら当然の事かもしれなく、何故、今、みく子が電話をかけて来たのかも解らず、それでも、今、この細い糸が切れてしまったら、もう再び繋がる事はないような気がして、僕は宛の無い中空を何度も手で掴み、切れてはいけない糸を握るように携帯を握りしめていた。五度閃光。空かさず、雷鳴。

「預金通帳、部屋にある、使って」
「部屋? みく子の金は?」
「大丈夫だか……」

数秒、鮮明。重なるように追尾する雑音。声が遠ざかる。

「もしもし!?」
「……しもし?」
「みく子、何処にいる?」
「ううん」

閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。閃光。
雷鳴。
心拍。
嘔吐感。

「あのね、蜜クン……」
「……何?」
「……く……すると……もう?」
「何?」
「……悪魔は存在すると思う?」
「え?」

暗転。
爆発音。
停電。
点滅する赤信号。

「……どういう意味?」

頭痛。
脱力感。
焦燥。
圧迫する精神性。

雑音。
何も聴こえない。
不可視。

「……………………」

野良猫よ、この台風を乗り越えられるか?

残酷な台風だ、きっと。

夜は長い。






「……もう一度、あの日の悪魔に会いたい」






その瞬間、みく子の声は、閃光よりも深く、鮮明に聴こえた。

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