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書┃籍┃化┃第┃一┃弾┃♪┃
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二日目:蜜編 現在 22話

商店街の小さな路地を曲がると、飲み屋通りに入る。
そこを奥に進むとゴミ捨て場があって、生臭い空気を気にせず更に突き進むと、小さなビルの裏手に出る。そのビルの現在の用途は不明で、昔は不動産関係のビルだったのが、何故か中華料理屋になり、途中から百円ショップに変わり、それを何度か繰り返した後、現在は、「よく解らないビル」と表現する他に適切な語句が見当たらないビルと化している。

そのビルの裏手の、鉄製の階段の下に、野良猫達が集まっている。
何故か野良猫達は夜ともなると此処に集まり、ニャオニャオと発声しては、喧嘩とも愛撫とも付かぬ集団興奮状態と、その傍観を繰り広げている。傍観を決め込む猫は年寄りなのかもしれないな、と僕は思いながら、その傍らに傘を差し出す。年寄り猫は特に反応しない。雨音。

「こんな事をする為に、此処まで来たのか?」
「そうだよ」
「雷が鳴っている中を?」
「そうだよ」
「ククククク……お前も随分とめでたい男だな」
「そうだな」

雷鳴は既に小さく、遠くなっていたが、雨足は変わらず地面を叩き付け、アスファルトの上を這うようにマンホールまで駆け抜け続けていた。今夜、騒ぎ立てる野良猫達は、普段よりも大人しく見える。そう何度も此処に来ていた訳では無いが。それが豪雨のせいなのか、それともみく子が来ないせいなのかは解らない。単に腹が減っているだけかもしれない。

「ごめんな、餌は無いんだ」
僕は立ち上がると、野良猫達を眺めた。数。減っていないような気がする。むしろ増えている気さえする。黒猫。何匹かの黒猫。僕を見たまま動かない。否、隣の男を見ているのか。

「……悪魔って誰にでも見えるのか?」
「見えないだろうな、少なくとも普通の人間には」
「普通の人間には?」
「一般的な人間。悪魔と契約する必要のない人間。羊には為り得ない人間」
「僕とお前がこうして話しているのを、見える人間もいるのか?」
「契約者には見える。霊能者には見えない。継承者には見える。あまり見られたくないがな」

詳しく解らないが、悪魔が見える人間と、見えない人間がいるらしい。当然と言えば当然だ。僕にも昨夜までは見えていなかったのだから。契約者には見える。当然だ。霊能者には見えない。若干意外な気がする。だが悪魔とは恐らく、僕らが想像する幽霊のようなオカルトめいた存在では無く、正しく目の前に存在するように、レイン・コートを着込んで退屈そうに笑っている単なる年齢不詳の暇人だから、霊能者には見えないのかもしれない。……継承者?

「継承者?」
「血。羽。刻印。以上。その話は、あまり好きではない」
「へぇ」

黒猫は、僕から目を離そうとしない。

「猫には、お前が見えているか?」
「……さぁな」

傘が雨を弾く音が聴こえた。
否、もしかしたら猫達は、耳を傾けているだけかもしれない。
動かず、騒がず、傘が奏でる雨音に、耳を傾けているだけかもしれなかった。
毎晩、聴いていた、誰かが唄う歌の代わりに。

雷鳴は既に小さく、遠くなっていた。


【M線上のアリア】 現在/22


「……家まで付いてくるのかよ!」
「雨、降ってるからな」
「何? お前、普段、何? 野宿してるの!?」

家の扉に鍵を差し込みながら、僕は叫んだ。
ヴィンセントが帰る素振りを見せず(何処に帰るのかは知らないが)、黙って歩いていたら、案の定、我が家まで付いて来たからだ。「帰れよ!」扉を開けながら追い返すように叫ぶ。深夜も既に一時半を回っている。二時が近い。我が声ながら近所迷惑だ。「野宿などしていない」
渋い声で言いながら、ヴィンセントは部屋に入ろうとする。何だコイツ。

「大丈夫」
何が大丈夫なのか解らない。これじゃ単なる、渋い声の迷惑勧誘員じゃないか。しかも意外と腕力があるようで、必死に扉を閉めようとしてもビクともしない。靴を捻じ込んで扉を閉められないようにしていやがる。迷惑だ。半ば、勝手に入り込む。「馬鹿! レイン・コート! 雨!」

ヴィンセントが強引に上がり込んだせいで、床が濡れている。……最悪だ。絶望的な落胆だ。狭いながらも楽しい我が家。僕とみく子の城が、無愛想な悪魔に浸食されていく。僕は急いで重くなったシャツとジーパンと靴下を脱ぐと、バスタオルを探した。ヴィンセントは濡れたまま、オレンジ色のソファに座ろうとする。

「馬鹿! そこ座るなよ! 勝手に座るなよ!」
「は?」
「せめて脱げ! レイン・コートを脱いでからにしろ! いや、座るな!」
「……イエス」
「……あぁあぁあぁ! 座ってんじゃねぇか! イエスじゃねぇよ! 座るな! 立て!」
「……イエス」
「……立ってねぇじゃん! お前のイエス、いちいち腹立つな! 返事だけじゃねぇか!」

ヴィンセントは濡れまくったレイン・コートのまま、オレンジ色のソファに座ると、そこから微塵も動こうとしなかった。最低だ。悪魔の所業だ。僕は雑巾を取り出すと、玄関から居間まで、脈々と続くヴィンセントが零した水滴を拭き、自分の涙も拭きたくなった。「笑えるか、羊?」

「はぁ!?」
「笑えるか、と訊いている、お前は笑えるか、羊」
「泣きたい気分だね」
「ほぅ、それは良い報せだ、笑える為に泣け、羊」
「お前が帰れば今すぐ笑えるよ」

床を拭きながら、散らばった雑誌などを片付ける。腹が減った。頭痛は大分、収まった気がするが、単に頭痛より空腹が勝っているだけかもしれない。みく子の声を思い出す。

(ちゃんと……食べてね)

「人の心配してる場合じゃないだろ……」独り言を呟いた後で、記憶の追尾。

(預金通帳、部屋にある、使って)

"部屋にある"。
大して広くも無い我が家では、部屋とは、此処を指す。すなわち、居間。
玄関に対して、部屋。それだけの違いを表す単語。此処以外に部屋なんて無いんだから。

生活費は、全てみく子が管理していた。僕は働いていなかった(らしい)のだから当然だが、(先刻まで一年間ずっと働いていたと思っていたが、)まだ働いていた時期も、みく子が管理していた。僕らは共通の預金通帳を作って、お互いの給料を、そこに振り込むようにしていた。通帳は何処にある? 大体、見当は付いている。

みく子は大切なモノを、何故か黒色のビニール袋に入れていた。大切なモノは、全てだ。
あろう事か不細工な怪物の絵が描かれていて、散々馬鹿にしたら、それはみく子の直筆によるネズミの絵だったと知り、その後、吐くまで怒られた。怒られすぎて、吐いてしまった。

しかし、あの絵を正確にネズミだと判別できる人間の方が異常で、それがみく子オリジナルのキャラクターなのか、それともサンリオか何処かが版権を持っているキャラクターなのか知らないが、怪物というか、宇宙人というか、少なくともカワイイとは言えず、何も知らない人達に向かって「これはウルトラセブンの第二十五話に出て来たネズミン星人です」とでも言ったら簡単に信じてしまうような、怪奇で不気味な絵だった。

「ネズミーらぶ」
油性マジックで書かれた、みく子の手書きの文字。それをどうして、みく子がそこまで大切にしているのか解らず、本人に聞いても「忘れちゃった」という曖昧な返事しか頂けず、その割、このネズミらしきキャラクターの名前は覚えていて、どうやらネズミーマウスというらしい。

「何を探してるんだ?」
「通帳」
「何だ、その変な絵は」

ヴィンセントの問を無視して、僕は黒色の袋を取り出すと、中を見た。
通帳。印鑑。その他諸々。やはり全て入っている。
僕は袋に手を入れて通帳を取り出すと、残額を確認する為に、そのページを開いた。

「……何だ、これ」

ヴィンセントのレイン・コートからは、まだ雨水が滴り落ちていた。
だけれど、もう、あまり気にならなかった。

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